suicide syndrome
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 ―――頭部に軽い衝撃を受けて、獄寺は目を開けた。目の前にはコンクリートの地面と、黒髪。
 何で、と言おうとして、自分が温かい、柔らかい何かに噛み付いているのに気付く。血の臭いと血の味がした。離したくない、と告げる意識の奥の声に逆らって口を離す。目の前には鮮血の赤。白い首筋が血に染まっている。自分と同じ制服のジャケットと、シャツの襟も。
 ゆるゆると顔を上げると、雲雀の顔が見えた。
 獄寺は同じ制服姿の雲雀を、組み敷いていた。その上、その首筋に食いついていた。軽い衝撃ははたかれたらしい。
 心臓が止まるかと思った―――いや、確実、止まった。
「……なん…ッ、これ、俺が…!?」
 だが当の雲雀は少し顔を顰めるだけで、それでも真顔で獄寺を見ていた。獄寺の方が青ざめる。状況が全く理解できなかった。百万歩譲って火事場のなんとやらで反撃に成功したのだとしても、噛み付くという行為の意味が分からない。喉奥まで血の味がする。血を飲んだらしい。
「覚えてないの」
「………………全く、」
 目を閉じてから今また開くまでの間、完全に意識が途切れている。まだどこか夢を見ているような呆然とした心地ですらある。
「そう。…とりあえず、重いんだけど」
「わ、悪い!」
 雲雀の声にまた少し覚醒し、慌てて謝る。獄寺の四肢はしっかりと雲雀を押さえ込んでいた。肩を地面に張りつけている両手をずらし、膝から下で絡め取るようにしている足も解放すると、雲雀はむくりと起き上がってきた。
 動いたせいかまた、傷口から血が流れた。濃厚な血の臭い。自分はこんなに鼻が利いただろうかと思いながら、眉根を顰めてハンカチか何かを探そうとする仕草の雲雀の肩を今度はそっと押さえ、獄寺は引き寄せられるように唇を寄せた。また意識の奥の声が残らず啜り上げろと命じるのに何とか逆らって、そっと舌を這わせて、舐めた。紛れもなく血の味。なのに美味かった。傷口もその周りも丁寧に舐めとり、唾液と共に飲み下す。血を飲むと吐く、とどこかで聞いたことがある気がしたが、全くその気配はない。それどころかもっと欲しいと思った。これが体の欲しているものだということを自然と悟った。
 汚れた首筋をとりあえず綺麗にしてやると、傷口は小さな二つの穴だと分かった。これでは自分はまるでアレだがまさかそんな、と非常識なその名前を拒否していると、ふ、と雲雀が漏らした吐息に、獄寺はまた少し我に返った。それでもまだ頭の芯に霞が掛かっている。とりあえず唇を離して雲雀を見ると、失血のせいか少し青白い顔で、雲雀は獄寺のシャツをゆるりと掴んできた。
「痛いか?」
「少し、ね。でもそれより、」
 白い貌に少し血が飛んでいるのが奇妙にエロティックだと思う間もなく、その顔が近づいて。
 唇を、奪われた。