serenata
/ かんな





「いつまで?」
「ん?」
 まるで獄寺の心を読んだかのような雲雀の言葉に、一瞬反応が遅れた。
「いつまで僕はここにいたらいい?」
 無表情に、雲雀は問いを繰り返す。
「いつまでって……」
「僕は、僕が何者かを知っている」
 人智を超えた直観力も、吸血鬼の力の一つだ。
 言葉を交わすことも顔を合わすこともなく、彼らは同族と意思を伝え合い、危機を伝え合ってきた。
 雲雀もそうであることに、獄寺は気付いていた。
 雲雀恭弥という自我が芽生えた時、目の前には獄寺隼人しかいなかった。
 獄寺は何も教えてない。
 けれど、いつからか雲雀は自分が獄寺と違う種族であることも、自分達が希少種であることも知っていた。
 獄寺にとって雲雀がただ預かり物にすぎないということさえ。
「……ずっと、ここにいたらいいじゃねぇか」
 返事は、遅れた。
 雲雀から目を逸らして。はっきり言い切ることさえできなかったそれが、どうしようもない自分の本音であることを獄寺は知っていた。
「嘘だ」
 きっぱりと雲雀が言い切る。
「嘘なものか」
「嘘だ。それぐらい見抜けないと思っているのか?君は僕が触れるたびに、拒否している」
「な……」
 正直、吃驚した。
 気付かれているなんて思っていなかった。
「拒否じゃねぇ……怖いだけだ」
「いつ食い殺されるかと?」
「違うっ!」
 反射的に、声を荒げた。
「?」
「……お前みたいなガキ相手に、歯止め利かなくなりそうな自分がだ」
 怖いのは。
 こんな、まだ自分の腕にすっぽり収まってしまうような子供相手に、欲情している自分だ。
「なんだ」
 獄寺の葛藤をよそに、雲雀の反応はしごくあっさりと失礼なものだった。
「なんだとはなんだ!」
「不感症なのかと思っていた」
「へ?」
 あまりといえばあまりな発言に、唖然とする。
「それじゃあ血を吸われるのは苦痛でしかないだろうから。仕方ないと思っていた」
 どこか淋しげな、自嘲。
 胸が、痛んだ。
 淋しい想いをさせてしまったのだと後悔したのは一瞬。
「イイんだ?」
 濡れた唇が、笑みを形づくる。
 なんて「いい」笑顔なんだ、と思った。
 まるで、かの初代のような。
 傍若無人。最強無比。
 ああ。
 そういえばこいつは小さくても可愛くても魔物だったんだなぁ、と今更のように思い出す。
 魔物の中の、魔物。夜の王。
 それが、純血種の吸血鬼だ。