母
「おい」
京子とハルの用意してくれたご飯を綺麗さっぱりと平らげて、満足そうな顔をしていた瓜を、獄寺が険しい顔で見下ろした。
「……お前、そんなんで腹いっぱいなのか?いいのかよ?」
死ぬ気の炎はいらねーのか、と言いたいらしい。
じーっと、瓜は獄寺を見上げた。
じーっと、獄寺も瓜を見下ろした。
(何やってるんだろう、獄寺君……)
自分の匣兵器とにらめっこを始めた友人を、ツナはそうっと遠巻きにした。
この友人の行動が時折──しばしば──ツナの理解と常識の範囲を超えるのは、今に始まったことではない。
にらめっこは、続いた。
折れたのは、少しだけツナが驚いたことに、猫の方だった。
にょおん、と、ついぞ聞いたことのない甘ったれた響きと共に、瓜が一声鳴いた。
「ふん、やっぱりな。初めからそうやって素直にしてりゃお前だってちっとは可愛いのによ」
途端に、獄寺が表情を緩めた。
でれでれ、というのはこういう時に使う形容詞なんだろうなぁ、とツナは思った。
「ほら、よ」
仕方ねぇなぁ、と、ものすごく嬉しそうに呟きながら、獄寺はその指先に美しい真紅の炎を灯して、その指先を瓜の口元へと差し出してやる。
ぱく、とその指先を瓜が咥えた。
こくん、と美味しそうに炎を呑み込んでいる。
「なぁツナ」
その光景を、ツナの隣でやっぱりぼんやりと見つめていた山本が呟いた。
「何?」
「ああやってると、獄寺、お母さんみたいなのな」
「お母さん…!?」
ツナはびっくりして山本の方へと顔を向けた。
「ん。俺も、よく知らないけど、赤ちゃんにミルクあげるお母さんってあんな感じじゃねーのか?」
「……」
いや、それはものすごく違うと思うよ山本。
そう、否定したかったけれど。
獄寺はとても穏やかな嬉しそうな顔で、瓜に炎を与えていて。
瓜も、とても満ちたりた顔で、獄寺の指先から炎を呑み込んでいて。
うっかり、その姿に見惚れてしまったりして、否定するタイミングを逃した。