似てる /似てない



「あれ」
 エネルギーの節約のために最小限に絞られたライトが、無機質な廊下を薄暗く照らしている。
 その、ちょうど光と光の間に蹲る、銀の毛並。エメラルドの瞳。
「獄寺君の猫じゃ……」
 どうしてこんなところに、とツナは首を傾げた。
 こうしてあらためて見ると本当に綺麗な猫だと思う。
 といっても通学路のブロック塀でよく見かけた丸々太ったトラ猫ぐらいしかツナには浮かばないのだけれど。
 長い毛並み。長い尻尾。耳のあたりに揺らめく炎。
 猫だけれど当たり前の猫ではない、匣兵器。
「へへ」
 ちょっと触ってもいいかな?
 京子ちゃんやハルに撫でられて、気持ちよさそうに目を細めていた姿を思い出す。
 が。
 伸ばしたその手の先、瓜はぷいと顔を背けた。しかも、思いきり欝陶しそうに。
(えー?今俺、思いきり無視された?)
 もう一度、と伸ばした手の先からさも面倒くさそうにゆっくりとツナの手の届かない距離まで離れていく。
(うわー)
 なんか今ものすごくうざがられた気がする。
『十代目!』
 同じエメラルドの瞳は、あんなに大切なものを見るようにツナを見てくれるというのに。
(全然、似てないよ)

 同じエメラルドの瞳でも。
 同じ銀糸の毛並みでも。

 獄寺君とは全然似てない、とツナは思った。