表紙;夜愛様
「touch and go」 2011/08/12
「ぜひ、その技術を確かめたくてね。御足労いただいたというわけだ。ご協力願おうか」
映像の中のヴェルデは平然とそう告げた。
「冗談じゃねぇっ。こんな真似しやがって!」
獄寺は無論、協力するつもりなどなかったけれど。
「これは、何かね」
ふ、と笑ったヴェルデがその手にかざしたのは、獄寺のボンゴレ匣だった。
「……俺の匣!」
「君の大事なものなんだろう?獄寺隼人」
「これは私の手の中にある」
「……っ」
「取り戻したくば、協力したまえ。獄寺隼人」
嘲笑と共に、映像は消えた。
「くそ…っ」
がん、と反射的にヴェルデの映し出されていた壁を殴ったけれど、拳が痛むばかりだった。
自分を拉致した奴らに協力するなんて、御免だ。
だが、あのいけすかないアルコバレーノが、獄寺のボンゴレ匣を持っているというのなら、なんとしても奪い返さないといけない。
「ボンゴレ十代目嵐の守護者をなめてんじゃねぇぞ、アルコバレーノ野郎っ!」
匣は奪われていても、獄寺の武器はそれが全てではない。
まずは監視カメラを壊した。
部屋の鍵は予想どおりかけられている。
とりあえず一度蹴り飛ばしてはみたが、それくらいでは壊れそうにないことを確認して、次は蝶番を爆破することにする。
「三、二、一…っ」
両手で耳を押さえると同時に、炸裂する閃光と爆音。
気付かれないはずはない。
ガタンとドアが外れると同時に、獄寺は飛び出した。
「くそっ、何なんだよ、ここは!?」
狭く天井の低い、代わり映えのしない廊下が続く。
周辺の状況を確認しようにも窓一つない。
嫌な予感。
これに似たものを、自分は知っている。
「……っ」
梯子と大差のない、厚くペンキが塗られただけの鉄板が剥き出しの狭い螺旋階段が行く手に現れる。
手摺を掴んで、一段とばしで駆けあがったその先も、代わり映えのしない白く塗られた金属が剥き出しの通路。
人がいないことを確認して、走って。手近なドアを開けて。飛び込んで。また上がって。
狭く急な階段を見つけて、上がる。
大きな閂で閉じられた曲線を帯びた扉を、開いたその先。
「………なんだよ、これ……」
不意に開けた視界の先には、一面の青空と。
だだっ広い、暗灰色の甲板。
「よう、坊主」
カチリ、とセイフティを解除する音とともに突き付けられる銃口。
響き続けていたエンジン音。
低い天井。
つまり。
ここは船上だったということだ。
しかも、ただの船上ではない。
遥か向こうに見えるあれは、写真でしか見たことのないカタパルト。
まっすぐに続く白線。
「空母……?」
「ご名答。我らがアジトにようこそ」
とん、と着地する足音さえ響かせず目の前に降り立った白衣のアルコバレーノが、笑った。
「てめぇっ、俺の匣を返しやがれ」
「君が協力してくれれば」
「誰がっ」
「では交渉決裂だな」
「……」
「ここから逃げ出すかい?救命ボートでも盗むつもりかな?」
「……っ」
逃げ場はない、と。
ヴェルデが嗤う。
「閉じ込めておけ」
ヴェルデが合図をすると、後ろに控えていた二人の男が獄寺を両脇から捕える。
「離せっ!」
「君の気が変わるのを待っているよ」
空母の上で、獄寺が頑張ったり、十代目や雲雀さんが獄寺の救出に頑張ったりしてる話です。