「鋒」 2007/10/07
「ヒバリさんが行方不明なんだ」
敬愛してやまないボンゴレファミリーの若き十代目ボスがそう切り出した時、獄寺は真剣に取り合わなかった。
「あいつが行方不明なんて日常茶飯事じゃないっすか」
連絡一つ寄越さねーで。
そうぼやく獄寺の表情は、けれど怒っているというよりは拗ねているようで、少しだけ獄寺のそういう表情を可愛いとツナは思ったけれど、わざわざそれを口にして地雷を踏みに行くような危険を冒すことなく、淡々と事実を告げた。
「うん、そうなんだけど。この前ヒバリさんがここに立ち寄った時、ランニョ・ファミリーの資料を見られたんだよね」
「……ランニョの奴らのですか?」
ツナの言葉に、獄寺は表情を改めた。
ランニョは、最近近辺のファミリーのシマを荒らしている新興マフィアだった。
安価で中毒性の高い薬物を撒き散らしては地元のファミリーを弱体化させていく手口は伝統あるファミリーからこぞって嫌われていた。
「ヒバリさん、何も言わなかったけど」
何も言わなかったけれど、まるで獲物を見つけた虎か豹のような表情というか気配を漂わせていた、とツナは記憶している。
「まあヒバリさんが壊滅させちゃっても、多分どこからも文句でないよね」
そう言ってツナは小さく苦笑する。
「空いたシマがボンゴレのものになっちゃうとそれはそれであちこちから恨み買いそうだけど、ヒバリさん並盛以外のテリトリーには興味ないし、元のファミリーに返したら、ちょうどいいかなとか思ってたんだけどね」
気弱な少年は、幾つもの試練をくぐり抜けて、十分にしたたかなマフィアのボスになった。かつてあれほど恐れた風紀委員長でさえ、その掌の上で泳がせられるほどには。
「だからいつランニョが壊滅させられたっていう知らせが入るかと思っていたんだけど、それっきり何もないんだ」
「……」
獄寺は、何も言わないまま、眉間に深く皺を刻んだ。
あのヒバリが咬み殺す相手も見つけて、大人しくしているなんて確かに考えられなかった。
「週末、ランニョとの会談があるんだよね」
さらり、ツナは追い討ちをかける。
「できれば、それまでにヒバリさんを見つけて欲しいんだ。頼んでいいかな、獄寺くん?」
敬愛する十代目の頼み───のふりをした命令に、否などなかった。
こんな感じで、シチュエーションだけなら、囚われのお姫様と助けにくる騎士です。
獄ヒバなので、全然そんな話を書いた気はしないんですが、たぶんそうです。
……まぁ書きたかったのは全然別のシーンなので、いいんですけど。