「nostalgia」 2011/05/04


 その日も、実験が終わらず、綱吉を待たせるのも憚られたので、先に帰ってくれるようメールで頼んでおいた。
 すっかり夜になってしまった帰り道、まだ新しい校門前の街灯の下、人影を見つけて足を止める。
 どう見ても、実験が遅くなったご同類とは思えない、黒いスーツを身に纏った長身で恰幅のよい、壮年の男が二名。
「獄寺隼人様ですね」
 癖のあるイタリア語で話かけられる。
「なんだ?お前ら」
 一見、ひどく興味のなさそうな、起伏のなさそうな口調。
 だが、完全に戦闘態勢となっていることを気取れないほど、男達も素人ではない。
「隼人様。我らは、かつてアルジェンテオ・ファミリーにいた者達です」
「お探ししておりました、坊ちゃん」
 男達の言葉に、驚きと戸惑いの色が、獄寺の表情に表れた。
「親父の…?」
 アルジェンテオ。
 銀を意味する、その言葉は、父親が支配していたファミリーの名でもあった。
「あなたをお迎えにあがりました、隼人様」
 二人の男は、恭しく獄寺に礼をした。


 (中略)


 二筋向こうの大通りのパン屋のフォカッチャが絶品だから、絶対食べろと昨日講義で隣の席に座った学生に熱弁をふるわれて、なんとなく買いに行ってみるかと夕暮れの街を歩いていく。
 日本とはどこか違う夕陽の色。街の匂い。
 目当てのフォカッチャを少し多めに買い込んで、部屋へ戻る景色の中に、ひどく異質にそれは存在した。
 黒髪自体はこの街でだって珍しくはない。東洋人だって沢山見る。黒いスーツを着た男だって、もちろん。
 なのに、彼は周囲の景色にひとかけらも馴染んでいなかった。
 ぱたぱたと黄色い毛糸玉みたいに真ん丸の小鳥が彼の肩から飛び立つ。
 みーどりーたなーびくー、とお馴染みのメロディーが街の喧騒をものともせずに響き渡って、何事か、と人々が空を見上げて、黄色い鳥の行方を視線で追う。
「ヒバリ…?」
 間違いようなんてない。
 それはもう一目見た瞬間から分かっていたけれど、にわかに信じられないのが人間というもので。
 なのに。
 雑踏の中、ゆっくりと視線を巡らした彼は、まっすぐ自分を見据えて。
 何故、という疑問さえその顔に浮かべることなく。
「ああ、君か」
 しばらく会ってないことなんて、まるで頓着しない顔で。
「ちょうどよかった」
 なんて。
 言ってくれるのだ。




大学生獄寺と世界放浪中雲雀さんが、イタリアでらぶらぶ同棲生活。


という話の予定だったのですが、実際はいつもの未来捏造マフィアです。