表紙;水剣芹哉様
「眠りの森」 2008/08/15
ボンゴレ傘下の病院の特別室は、一般病棟からは完全に離れたところに設けられていて、防弾ガラスに各種センサー、アラームとさながら最前線の砦のような設備が備えられている。
自力戦闘が不可能な幹部ほど、その存在を消すのに効果的なものはない。
過剰ともいえる設備は、ファミリーの重要人物を護るためと、他の入院患者を巻き添えにしないための、二重の意味での防御だ。
一流ホテル、とはさすがに言い過ぎだが、そこらのシティホテルなら軽く凌駕する広く快適なバスルームに、テレビ・オーディオ。ソファに、冷蔵庫。
けれど、すべての中心に位置するベッドは、一般病室のそれとは比べものにならない程には広くて、寝具も上質ではあったとしても、間違いなく医療用ベッドだ。
周囲を囲む幾つものモニター。静かに明滅する赤や緑のランプ。
その全てが、柔らかなシーツの隙間で眠る彼が、ただ眠りを貪っているのではないという事実を集まった者達に突きつけていた。
十代目ボンゴレボス、沢田綱吉。時雨蒼燕流九代目にしてボンゴレ十代目の雨の守護者、山本武。
毒サソリビアンキ。十代目キャバッローネファミリーボス、跳ね馬ディーノに、トライデント・シャマル。
獄寺に所縁の者達がぐるりベッドを囲む輪の中から、視線で促され、躊躇いがちに綱吉が一歩進み出た。
「……獄寺君……」
蒼褪めた顔。
最も近しい友人であり部下である獄寺の身に突然降りかかった事態が、まだ飲み込めないでいるような表情のまま小声で呼びかけて、そして答えの返らぬことに深く傷ついたまなざしをした。
集まった誰もが、沈痛な面持ちで、まるでそんな綱吉からも視線を背けるように、そっと俯いた。
雲雀と共に出向いた任務中に倒れた獄寺は、それきり目覚めなかった。
戦闘中だったため、同行していた雲雀も、その時獄寺に何が起こったかはっきりと見ていたわけではなかった。
だが、不意に獄寺に突き飛ばされたというその時の状況と、不自然に落ちていた見たこともない形式の狙撃銃から、獄寺がおそらくは雲雀を庇って撃たれたということが推測された。
その身に銃創の発見できなかったことから、特殊弾の作用であることはすぐに推察されたが、問題はその作用がまったく見えないことだった。
雲雀の目の前で意識を失った獄寺は、ただ眠り続けるばかりだった。
呼吸、血圧、心拍数。体温も脳波も全て、正常だった。
回収された狙撃銃の弾倉には残弾はなく、狙撃手と思しき男の周囲からも未使用品は、発見できなかった。
つまるところ、獄寺の身に何が起きているのか、誰にも全く分からない。
それが現状だった。
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「こんなのは間違っている」
眠り続ける男の枕元に雲雀は立って、ぽつりと零した。
てっきりあの群れの中に混じっているかしましい女子達の誰かでも詰めているかと思っていたけれど、予想に反して彼の病室に他に人影はなかった。
「君は僕のために使う命なんてないって言っただろう?」
信じて、いた。
その、言葉を。
「君が守るのは、僕じゃないだろう?」
だから、共にいられた。
かけらほども、この心揺らぐことなく。
ただ、気まぐれのように、必然のように、近づいて。身体を重ねて。
そして、また去っていくだけの存在として。
処置を施しやすいようにだろう、淡い緑色の薄いバスローブみたいな病衣を着せられた姿は、服装には人一倍こだわりのある彼にはおかしいほどに似合ってなくて、笑ってしまいそうだった。
「痩せたね」
明らかに細くなった腕に刺しこまれた、長く太い針が痛々しい。
「ねぇ」
目を開けなよ。
いつものように。
声に出さない囁きは、祈りに似て。
「つまんないよ」
淋しいなんて、知らない。
悲しいなんて、知らない。
ただ。
物足りないだけだ。
割といつもどおりの感じで戦闘シーンとえろがメインのような話です
ツナさまとディノさんのボス二人が出張ってます
この人達がメインの勢いです
獄ヒバ二人はある意味絡まない分、いつもよりらぶな感じかと