表紙;歩田川和果様
「雲の通ひ路」 2008/08/15
「勝手に入っていいなんて言ってないよ」
話題の当人、台風の目は、日本にいた。
並盛町の地下深く。
建設途上のボンゴレ日本支部地下アジト───に隣接する、これまた建設途上の風紀財団研究所の中の、既にほぼ完成を見ている一画に。
「よぉ」
まだ青々とした畳の上、黒いスーツの上着だけ脱いで寝そべっていた獄寺は、ごろりと寝返りをうって、入り口の方へと顔を向けた。
基本、雲雀はここを私室としているはずだが、どこで着替えてきたのだろう、と割とどうでもいいことを疑問に思う。
比喩でもなんでもなく、文字通り目と鼻の先には白い足。形のよい爪と、綺麗な稜線を描く指骨。その破壊力が嘘みたいに可愛い丸みを帯びた踵。踝が黒い布の下で見え隠れする。
そういえば、雲雀が、着物を愛用するようになったのはいつの頃からだったろう?
そんなことをぼんやり考えていたら、目の前の足が動くのと殺気を感じるのは同時だった。
避けられたのは、自分でも奇跡に近いと思う。
「よく避けたね」
雲雀が笑う。
はっきりいって、恐ろしい。
避けられたことで、怒りゲージがさらに上がっている。
旅館の大宴会場か、あるいは寺の本堂か。何畳あるのかなんて、数えたことのないだだっ広い畳敷の部屋で、しばしの戦闘が繰り広げられる。
戦闘というよりは猫が鼠をいたぶるように、避ける獄寺を一方的に雲雀が追い詰める構図が続く。
「……っ、だから!ちょっとは話ぐらい聞けっつってんだろーが!」
さすがにこの建設途上の研究所の、数少ない内装が終了している部屋を自慢のダイナマイトで破壊してしまうのは躊躇われるせいで、獄寺にはほとんど反撃手段がない。
部屋の隅に三回目に追い詰められて、完全には避け切れなかったトンファーの鈍い重みを痺れる上腕に感じつつ、声を上げれば、不意に雲雀がトンファーを止めた。
「群れを離れたんだって?」
もはや完全に袋の鼠となった獄寺を前に、舌なめずりをせんばかりの獰猛な笑顔で雲雀がようやく口を開く。
ああ。そうか。
獄寺はこの期に及んでようやく気付いた。
「群れてない君なら許してあげる」
怒っている、どころか。
雲雀は、上機嫌なのだ。
着物で大人な雲雀がメインテーマ(?)。
話そのものは、いつものようにツナさんが中心だったりするのですが
へたれな隼人が、割と雲雀に甘やかしてもらってる気がします