心地よい気だるさが全身を覆っている。 体に風を感じていた。 研ぎ澄ましている感覚は一部を除いてゆるくほどけていく。 雲雀は警戒を完全に解くことはないが目を閉じてくつろいでいた。 階段から屋上へつながる扉が開く音に気分を害された。 危機感に起き上がるほど勢いがついているわけでもないが、刺激しないほど静か でもない。 雲雀がいても屋上にやってきた相手を確かめるのに目を開けるのも面倒だった。 見なくても動きでわかる。 ほとんど足音はなく、空気だけは動く。 たいして知っているわけでもないのに特定できたことに苛立ちが芽生えたが、気 持ちいいまどろみを妨げるほどでもなかった。 わざわざ近づいてきて隣に腰を下ろす。 視線を感じたが、雲雀は目を開けなかった。 「こんなところに寝ていて干からびないか?」 答える必要はないと黙っていた。 彼が群れていないのを珍しいと思いはしたが、尋ねようと思わなかった。 知りたいわけではない。 群れに取り込まれるような嫌な感覚があって言葉を交わすのもごめんだった。 「今日、10代目が休みだから授業受けてるのバカバカしくてさあ」 勝手に理由を説明する。 黙ったままでいると彼が動き出した。 「僕の前でタバコかい?」 言葉を交わすだけでぬるい結びつきが強くなる気がしてうっとうしいが、校則違 反に目をつぶる気もない。 「あ、いや。そんなことは」 彼は黙って動くのをやめた。 手持無沙汰になるなら違う場所に行けと思う。 やってきたのに意味はないらしいが、それなら入り込んでくるなと思った。 「ワイロ」 頭の側にことりと音がして何かを置かれた。 「そんなものは受け取らない」 目を開けないと聴覚の比重が増す。ため息に笑いが含まれていた。 ビニールの触れ合ってストローから飲むものを嚥下する音まで聞こえた。 人が活動する音はわずらわしい。 自分に無関係ならやりすごせるが、引っかかりのある分だけうっとうしい。 相手にしなければそのうち去るだろうと目を閉じたままでいた。 外からの音がさえぎられた。 風も止まる。 唇にやわらかくてぬるい感触がある。 目を開けると光が透けてきらめく髪が見えた。 近すぎて顔は見えなかった。 「ごめん」 離れて見えた顔は真っ赤だった。 「謝るような事をしたのか」 彼は大げさに首を振って否定した。 銀の髪が揺れる。 口の中で何か言うと勢いよく立ち上がった。 「何だ、あれは」 思わず声になったことに気づいて雲雀は眉を寄せた。 気分を害されて起き上がった雲雀の手に当たるものがあった。 目を向けるといちごみるく味の紙パックが置かれていた。 |
ヒノマナミ様より頂き物 初書き獄ヒバを宿代として おねだりしました |