表紙;武居幸士様



「青の銃弾」 2010/12/30


「……っ!?」
 銃弾を避けようと意思をもって動いたわけではなかった。
 ただ、雲雀が瞬間的に身を沈めて、次の瞬間ぱしっと空気を切る擦過音が確かに聞こえた気がした。
「うあああああ」
 一拍おいて叫び声が上がった。
 雲雀が回避したために、標的を失った銃弾が先を歩いていた財団の部下に当たったのだった。
 悲鳴と共に倒れた部下を見て、初めて雲雀はそれが狙撃で、狙われたのは間違いなく自分であることを認識した。
「……」
 振り向き、僅か上方を仰ぎみる。高さのあるマンションが、幾つか。
 軽く目を細めて、自分と部下の位置関係から入射角を推測する。
 あの辺りか、と目星をつけたのは、もう新築と呼べなくなって久しいけれど、まだまだ十分に外観の美しさを保っている、高層マンションの一棟だった。


「どうした、ヒバリ。お前が呼び出すなんて珍しいな」
 何故リボーンを呼んだのか、草壁自身も知らない以上詳しい事情の説明はなされていない。むろん、雲雀が狙撃されたということもだ。そのためか、リボーンの口調はいつもどおりの、のんびりしたものだった。
「ああ、君に一つ教えてもらいたいことがあったんだ、赤ん坊」
 もっとも狙われた雲雀の方もいつもとまるで変わらぬ顔と口調で、話を切り出す。
「お前が?珍しいこともあるものだな」
「僕が、ここに立つとする」
 先ほど気配を感じて避ける寸前まで立っていたところと、同じ位置に立つ。
「君なら、どこから狙う?」
 世界一優秀とさえ言われている赤ん坊は、面白そうに雲雀を見やった。
「ふむ」
 たぶん小さな赤ん坊はそれで察してくれるはずだ、色々と。
「狙撃されたのか?」
「狙われたのは確かに僕だけれど、撃たれたのは僕じゃない」
「で、代わりに撃たれたのが、ここにいたヤツだったってことか」
 道路に残った僅かな血痕に、リボーンの表情が消える。
 しばし、雲雀の立つ場所と血痕の残る位置を交互に見比べていたかと思えば、おもむろにその小さな手を挙げて、雲雀が先ほど見ていたのと同じマンションを指差した。
「撃たれたって奴の傷を見てみないと正確な階数までは推定できないがな」
「君ならって言っただろう?十分だ」
「雲雀」
「何?」
「こいつはプロの仕業じゃねぇ」
「そう」
 冷ややかといって構わないほどの、互いの感情を覗かせない、静かな会話。
「あのっ、ヒバリさん!その、まさか撃たれた、ってことですか?」 落ち着かなげにリボーンの下で二人の会話を聞いていた――というより聞かされていた――綱吉が、堪えきれなくなって口を挟んだ。
「……」
「今更何をいってやがるんだ、このダメツナ」
 返されるのは絶対零度の冷ややかさを伴った沈黙と、家庭教師の容赦ない一言。
「その…っ」
「君には関係ないよ」
 綱吉がまだ何か言いかけようとするのに背を向けて、雲雀はもう二人には目もくれなかった。



 雲雀が撃たれたという知らせは、草壁からリボーン、綱吉と回って、獄寺に届けられた。
「あの、野郎っ」
 最初に、彼の身を案じた。腕を掠めただけだと言われて、ならば心配いらないと思えるほど、獄寺は冷静ではない。
 それから、あの雲雀恭弥をたかが普通の拳銃ごときで傷つけられたということに、驚愕した。匣兵器であっても容易にダメージを与えることのできない雲雀に傷を負わせるとなれば、かなり強敵ということになる。背後からの狙撃を避けるために、雲雀自らがより脅威の少ない方へと身をかわした結果、銃弾の前に自ら踏み出してしまったのだという経過までは、獄寺には伝わらなかった。
 最後に、そうしたことのすべてを、人づてにしか知らされることがない、自分達の現実にどうしようもなく、苛立ち、そして落ち込んだ。
 




雲雀さんが狙撃されました、というお話。


いつもどおりの未来捏造マフィア。
雲雀さんのご実家とかオリキャラとか捏造し放題です。

ご注意を。