舌の上の爆発




 グラスの中で大ぶりの氷がからんと澄んだ音を立てる。
「……」
 グラスの中には琥珀色と称される液体。
 テーブルの上には酒瓶が7本と、雑多に広げられたノート。
 細かな書き込み。
「今日は何?」
「スコッチ」
 真剣な顔でグラスを睨んでいた獄寺がおもむろに口をつけた。
 複雑な顔。
 最近の獄寺は暇さえあれば、こうやって各種の酒を飲み比べている。
「それ、美味しい?」
「……分からねぇ」
 獄寺は顔を顰めた。

 別に酒に溺れているわけではない。
 20才の誕生日を越えて、酒を勧められる機会が一気に増えた。
 茶やジュースに仕込まれた毒物であれば比較的容易に感知できる程度には毒物に敏感な舌と身体は持っているが、慣れない強いアルコールは舌と神経を狂わせ、判断を誤らせる。
 まずは舌と身体に本来の酒の味と酔い方を覚えさせて、異変を感知できるようにしようというのが、ここしばらくの彼の課題だった。

 化学の実験を淡々と進めるような表情で、口をつける獄寺に何を思ったのか。

「……ふぅん」
 ひょい、と手元のグラスを一つ雲雀が取り上げた。
「あ」
 止める余裕もあらばこそ。

 ごくり豪快に飲み干された液体は、雲雀の喉を灼いて、胃に落ちていく。

「……何これ」
 顰め面。
 ものすごく嫌そうな顔で雲雀が呟く。
「タリスカー。スカイ島のウィスキー」
「ヨードチンキと正露丸の匂いがする」
「あ、やっぱりお前もそう思ったか?」
 獄寺は嬉しそうに顔を上げた。
 同意を得たことが嬉しいらしかった。
 世界的に有名なウィスキーを正露丸とヨードチンキの匂いと断定することにどうやらためらいがあったようだった。
「美味しいか?」
「最悪」
 吐き出せるものなら吐き出したそうな顔で雲雀が呟いた。




 その一口が間違いなく一因となって、雲雀の洋酒嫌いは形成され。
 一方の獄寺は数年後には舌の上で爆発するような、と称されるその酒を好んで口にするようになるのだが、それはまた後日の話だ。














SNSより再録



一日一獄ヒバは 酒お題でした


タリスカー、私は大好きなんですが
正露丸の匂いだとも思ってます

舌の上で爆発するような、と形容されるらしい
獄寺っぽよね と勝手に解釈