四重奏 5





「あ」
 絵本のページには大きく立派なホワイトタイガー。
「あーあ、俺も早くこれくらい大きくなりてぇなぁ」
 溜め息混じりに、はやとが呟く。
「君は大きくなったら、こういうホワイトタイガーになるのかい?」
 傍らにごろり腹這いに寝そべっていた雲雀がおっとりとした口調で尋ねる。
「おう」
 はやとは胸を張って力いっぱい頷いた。
「雲雀なんか丸飲みできるくらい大きくなってみせるさ」
「ふぅん。体が大きくなったくらいで僕を咬み殺せると思う?」
 黒くて丸い瞳に少しだけ物騒な光を加えて。でも雲雀は少しくらい物騒な方がかっこいい。
 みゅ、とはやとは言葉につまる。
「そ、それは。……俺は、雲雀を咬み殺したりしねぇよ」
 困り顔。雲雀を守るために大きくなるのだとは言えない程度には不器用なのなんて知っているから。
「楽しみにしているよ」
 大きな黒猫はゆるりと笑った。




「可愛いよね」
 自分がホワイトタイガーになれると本気で信じているなんて。くつり、思い出して笑う。
「で?お前はあいつのその壮大な誤った思い込みを訂正してはやらなかったわけだな?」
「だってあんな無邪気に信じているのに可哀想だろ?」
「いずれ現実を知って泣くぞ?」
 冷ややかに言ってみるものの。
「そうだね」
 むしろ楽しそうに微笑まれ、ああそうだった、こいつにとってはそうやってあの銀色仔猫が泣く姿など可愛くて仕方ないことだろうと思い至る。
「その時はその時さ。それとも君が教えてあげるかい?」
「冗談」
 それは不可能な希みだと知る頃には。
 あの仔猫も今より打たれ強くなっているに違いない、とこそり願いつつ。














SNSより再録