夏季休暇





「ということで夏休みだ」
 獄寺君はここからここまで、その後が山本ね。
 縦軸に、六人の守護者の名前。横軸に2ヶ月分の日付が書かれた手書きの勤務表を手に、にっこりと綱吉が宣言した。
 なんですか、その原始的なアルバイトのシフト表みたいなものは、という反論は、ハイパーモードで額にオレンジ色の煌かせる綱吉相手に言えるはずもなく。

 気付けば、ボンゴレの最強守護者二人。
 エーゲ海の孤島の、小さなコテージに着いていた。
 照りつける真夏の太陽は灼けつくようで、けれど海風は心地よく熱気を吹き飛ばしていく。


 外は晴天。開きっぱなしの窓からは、海風。波の音。
 光溢れる室内は、けれど健全とは言いがたく。
 このコテージに入ってからのほとんどの時間を過ごしているベッドの上、ぱりっと皺一つなく気持ちよくベッドメイキングされていたシーツは、汗だのなんだの色んな体液に汚れて、ぐしゃぐしゃになっている。
 脱ぎ捨てられたスーツは床に転がったまま。
 着替えの入ったトランクも、部屋の入り口に放置されたっきりだ。
 
「お腹すいた」
 不意に雲雀が口を開く。
 ベッドに伏したまま、堅強な肩からなだらかな背中、引き締まった尻と続く曲線は目に毒で。
 あれほど満たされたはずの欲が、そっと疼くけれど。

 目の前の恋人は、性欲よりも食欲が勝っている、らしい。
 本能に忠実な恋人のため、しょうがないからベッドからのそのそと降り立つ。

 着替えを求めて、トランクに手を伸ばせば。
 あれでいいじゃない、と笑って指差されたのは、キッチンのラックにかけられた、黒のエプロンだった。
「……お前なぁ」
 くすくす、と楽しげに笑う雲雀は、たぶん衣服を身につける気なんてまるでなくて。
 ならそれに乗るのも一興かと、ひさしぶりのバカンスにほどよく馬鹿になった頭で思った。


 我ながら間抜けな格好だとは思う。
 下着の一枚も身につけないまま、言われるまま黒のカフェエプロン一つ腰に巻きつけて、キッチンに立つ。
 とりあえず自炊に不自由しない程度に、キャビネットと冷蔵庫にに用意された食材から、パスタ、オリーブオイル、ガーリック、トマト、バジル、ワインと手早く並べていく。
 ことん、ことん、と不規則に包丁がまな板を叩く。
 深鍋にたっぷりと沸かしたお湯で、パスタを茹でつつ、フライパンにたっぷりいれたオリーブオイルで荒く刻んだガーリックを炒める。
 開け放したドア。
 ベッドルームから、視線が送られているのを、背中で感じる。
 肩甲骨から、腰骨のあたりへと、降りていく視線は、ほとんど物理的に等しい圧力で背中を擽る。
 くすくす、と小さく笑い続ける気配。口を開けて待っている雛鳥は、機嫌がよい。
 勝手に笑ってろ、と嘯いて、作業を続ける。
 ぶつ切りのトマト、ちぎったバジル、硬めに茹でたパスタと順に放り込んで、白ワインを振り掛ければ完了だ。


 片手にパスタの大皿、もう片手にワイングラス2つを持って、ベッドサイドに戻る。
 おかえり、とまた雲雀が笑う。

 乾杯は、真夏の真っ青な大空に捧げて。
 呑んで、食べて。
 食べたりないみたいに、噛み付いた唇は、互いにガーリックの匂い。
 

 脱がせる手間が、いらないから、というのは。
 もう一度抱き合う理由に十分だと思った。












SNSより再録


裸えぷろん


すみません、暑さで脳が溶けてました
(てか暑さのせいってことにしてやってください)