甘く 甘く




 
「ねぇ」
 甘いもの。
 一戦交わした後の雲雀の横暴さは、なんとなく甘えられているような気がするので嫌いじゃない。自分が面倒見のよい性分でないことは確かだが、うっかり我侭を叶えてやりたくなるような甘い何かが、そのひとときだけはあった。
 が。
「甘いもの、ね」
 リゾートタイプのホテルのスイートはキッチン完備で、冷蔵庫の中にはひととおりの食材も揃っている。
 冷蔵庫を開ける前に、キャビネットの中のキャドバリーデイリーミルクも、マカダミアクッキーも却下された。
「もっと生っぽいものがいい」
 要求は簡潔にして難題。
「……どうしろってんだ」
 冷蔵庫の中の卵と牛乳はともかく、季節外れの苺や生クリームのパックに不審を覚えることが出来なかったのは、獄寺のデータ不足だ。
「……お」
 いいモン見っけ、とキャビネットのインスタントコーヒーのパックの後ろから取り出したのは、ボトルタイプのケーキミックスだ。水もしくは牛乳をラインまで入れて、ボトルごと振って焼けばいい、という優れものだ。
「生っぽいもの……」
 作ったことなんか当然ない。
 どっちかというとここらはトラウマ直撃の領域なのだ。
 が。
 トラウマに痛む胃腸と、目の前の雲雀のトンファーと足蹴の強烈コンボを秤にかければ、当然後者に重きは置かれる。
「……混ぜりゃ、いいんだよな」
 作ってるところなら、たくさん見てきた。
 姉。
 十代目のお母様。
 それから、笹川と三浦。
 大きなガラスのボールに、生クリームをあけて、泡立て器でがしゃがしゃと掻き混ぜる。
「うわ…っ」
 予想外に飛び散るクリームに、吃驚する。
「くそっ」


「おらよ」
 出来たぜ、と机に置かれた大皿には、こんもりとパンケーキの山。
 中途半端に泡立てられた生クリームが、その上に今にも崩れそうな山になっている。
 さらにその上に丸のままのイチゴが積まれているのは、崩れる寸前の前衛芸術。

「食べなよ」
 ずいと、押し戻される
「は?」
 さすがに唖然とした。
「えーと、ヒバリ?一つ訊くが、甘いものって言ったんだよな?」
「甘いもの、とは言ったけど甘いものが食べたいとは言ってないよ」
「はぁ?」
「今日は甘いものの嫌いな君がケーキを山のように食べさせられる日なんだろう?」
 だから。
 今日、最初の嫌がらせ。
 
「誕生日なんだろう?」
 さぁ、そのケーキの山をたいらげてみなよ。
 そうしたら。

 おめでとう、と。
 いってやらないこともない。










はやと  お誕生日おめでとう!

今年もちゃんとここでお祝いができることが幸せです