夏祭





 イタリアと並盛を往復する生活が、当たり前になって、だいぶ経つ。
 少しばかり面倒くさいごたごたにイタリアで巻き込まれて、2ヶ月ぶりに並盛に戻れば、町に溢れるのは色とりどりの浴衣に身を包んだ少女達の群れ。

「……あ」
 ああ、そうか。
 夏祭りなのだ、と思い出した。

 忘れられるはずもない、14歳のあの夏の花火は、今も胸に鮮やかに咲いている。


 次第に人混みの密度を上げていく道を、ふらり歩いていく。
 両脇に並ぶ屋台。
 そういえば山本の野郎は最後までベルギー製チョコをフランス製と言いやがったっけ。
 十年ぶりの怒りを蘇らせつつ、参道を進めば。

「5万」
 懐かしい幻聴さえ、聴こえて。

 ……幻聴。

「…って、ヒバリ!?」
 三回瞬きをしたけれど、いっそ幻覚であって欲しい姿は消えることなく。

「やぁ」
 振り向いて。
 獄寺を見つけて。
 にやり、と笑った。

「5万」
「何で俺がっ!」
「ショバ代」
「あぁ!?」
「並盛にあんなもの作ってるんだから当然でしょ」
「てめぇ………」
 掌を上に差し出されて。
「風紀財団の活動基金だよ」
 笑顔は確信犯。
 互いの胸にあるのは、間違いなく十年前の、この同じ場所での光景で。
 彼も、また。
 忘れてなどいなかったということに、無性に胸が熱くなる。

 言いたいことは山ほどあったけれど。
「おら、よ」
 掌の上に、万札を5枚並べて。
「たまにはつきあえよ」
 斜め前の、屋台でチョコバナナ2本買って、1本を押し付けた。


 黒いスーツの男2人で、本殿へと登る長い石段をゆっくり歩いていけば、モーゼよろしく不思議と人波が引いていく。

 夕暮れ。
 うるさいほどの蝉の声。

「……っ」
 人気の絶えた神社の裏手。
 不意に奪われた唇。

 喧騒が遠く消えていく。





 宵闇。
 儚い光の花が、咲いては散り、また咲く。

 十年一夜。
 あの日のままに。


 今もまだ。

 彼の存在に、心かき乱されている。












SNSより再録


十年後獄ヒバ並盛神社の夏祭