* 一部、痛い系の表現があります。
  傷の描写などが苦手な方はご注意下さい。











第三の瞳





 カチ、と金属音を立ててライターの蓋を親指で弾き開ける。
 オイル臭。
 それがいいのだとライターの持ち主は言うけれど、好きにはなれない。
 シュボ、という独特の音と共に灯る炎は、掌の中で燃えていると傍で見ている時より、案外大きいことを知った。
 
 左手にライター。右手には針。ピアッシングニードルというらしい。
 揺れる炎が、その長い針の先端から半ばまでをゆっくりと舐めていく。
 針を持つ指の先が、うっすら熱さを感じたところで、カン、と鋭い音を立てさせてライターの蓋を閉じた。

「いくよ」 
 言うと同時に、耳朶に刺した。

 針の先で、ぷつりと皮膚の破れる感触。
 柔らかな鋭い針の先は、思ったよりずっと抵抗なく彼の身体を貫き、ふとその先端の抵抗が消えたと思った時には、もう穴が通っていた。
 
 あっけない、と思った。
 人の身体は、どこもかしこも脆くて弱くて、あっけない。

 針を支える右手はそのままに、空いた左手をサイドテーブルの上の小さなビロード張りの箱に伸ばした。
 箱の中には、エメラルドの嵌ったピアスが一つ。
 たまたま通りがかった店のウィンドウに飾られていた、どこか煙るような緑の小さな宝石が妙に気になって足を留めて、衝動的に購入した理由に気付いたのは、しばらく経ってからのことだった。

 いつの頃からか、雲雀の心を掻き乱すようになった、くすんだような緑。
 彼の、瞳の色。



「あげる」
 用途なんて最初からなかったエメラルドのピアスを、半ば持ち主に返すようなつもりで突きつければ、なんとも表現の難しい顔をされた。
「…………おう」
 たっぷりすぎるほどの沈黙を挟んで、頷いた彼の耳朶がまだ穴を開けてもいないのに、赤くなったのは、たぶんきっと目の錯覚じゃない。





 よく似た緑の宝石が3つ。
 二つは自前の。
 そしてもう一つは、雲雀が贈った宝石だ。

「エメラルドは壊れやすい。そう言われた」
 ダイヤモンドやルビーの硬度には、比ぶべきもなく、エメラルドを始めとする緑柱石は衝撃に弱い。
「これは、僕のだから。傷つけたりしたら、承知しないよ?」

「……くれるっつっただろうが」
 うっすら血の滲む耳朶。
 きっと今頃、小さな痛みを発し続けているに違いない。

 
 これ、が。
 ただピアスの石一つだけを指すのではない、と。
 
 たぶん、彼は一生気付かない。











SNSより再録



SNSのあしあと180のキリバンリクエストでした

[ニードル エメラルド ほのお]
の三題をお題としていただきました