無自覚




 「愛されてんなあ」

 朝。
 人の顔見るなり、野球馬鹿が言った。
 
 一抹の苦笑と。
 純粋な感嘆。


 誰のことを言っているのか、分からないわけではない。
 それについても、言いたいことは多々あるが。
 まずは、反論だ。

「どこがだ」
 見ろ、と元々半分しか釦のかかってなかったシャツの裾を思いきりよく捲り上げて、それはもう痛々しい程にくっきり残る青痣を見せつける。
 青痣、と一口に言うが、赤とも紫とも灰色ともつかないそれはもう情けない色になっている。

「………獄寺、さぁ」
「んぁ!?」
「……いや、いい……」
 山本は何か言いたげに、何度か口を開いて、結局何も言わずに去っていった。
 まったく、何だってんだ。
 朝から気分が悪いのヤロウだ。
 獄寺は、舌打ち一つシャツの裾を戻すと、己の執務室へと向かった。





「……分かって、ねぇのかなぁ?」
 一つ、首を傾げて。
 山本は、一人ごちる。

 見るも痛々しい青痣の隣には、山桜の花弁のように綺麗な薄紅色の痣が一つ。
 その、痣の意味に気付かぬほど、子供ではないというのに。

 

 
 その身を傷つけることも。
 愛することも。
 
 己一人と宣言するような。
 その、痣の意味を。

 





SNSより再録



はやとは鈍すぎるくらい鈍いのが可愛いと思います