甘え




「優しくしろよ、たまには」
「何それ?」

 背中ごしに抱き締めた身体。
 来るかな、と思っていたトンファーは、下りてこなかった。



 彼を抱いたその手は、もちろんとっくに洗い流したけれど、まだ血と硝煙の匂いを纏わりつかせているようだった。 
 そんなことに、今さら怯む自分達ではないのだけれど。

「その敵、強い?」
「……何の話だ?」

 返ってきた言葉は、獄寺の予想の斜め上だった。

「君がボロボロにされる時は、だいたいすごく強い敵が出てくるから」
 六曜中の時も。
 リング戦の時も。
「……俺はお前の愉しみの先触れじゃねーよ」
 がっくり、と。
 背中越し抱きしめた姿勢のまま、獄寺は一見ほっそりとして見える肩に、顔を埋めた。




 ただ、そうしていることが。
 何より、ものすごく甘やかされているのだと、自覚して。

 少しだけ、さらに落ち込んで。
 本当は、とても救われた。