春爛漫 変わらねぇなぁ。 柔らかなグレーの校舎を見上げて、ディーノは小さく苦笑した。 並盛中学から並盛高校へと可愛い生徒と弟分はその所属場所を変えたけれど、日本の学校はどこもよく似た空気に満ちている。たぶんイタリアの学校も似たりよったりなのだろうけれど、こと異国のそれはディーノの目には区別がつかないほどによく似て見えるのだ。 よく似た印象の廊下を抜けて、二階、正面玄関から入って一番使い勝手のよい位置に設けられた応接室の扉を、いつものようにノックと同時に開いた。 「よぉ、恭弥」 トロフィーと賞状の飾られたキャビネット。黒の合皮張りのソファ。ローテーブル。 眩暈がしそうな既視感溢れた応接室の、その最たる規格品のソファに、彼はぐったりと横たわっていた。 風紀委員長の腕章は、その姿には少しばかり不釣合いだとディーノは思う。 もっともディーノも、彼の不調の理由を知っていた。 ちらり、視線を走らせた窓の外には、限りなく白に近い薄紅色。 桜が咲いている。 「なんだ、まだ薬飲んでないのか?」 Drシャマルが雲雀に感染させたサクラクラ病は、不治の病だけれど、とりあえず薬を飲めば症状の出現は完全に抑えられる。 それは雲雀自身が一番よく知っていることだ。 にも関わらず、こうしてよりによって学校のソファでぐったりとしているということは、相変わらず自分からシャマルの元に薬を貰いに行くことを断固として拒否しているということなのだろう。 プライドが高い、というよりは単に意地っ張りなのだ。このディーノの可愛い生徒は。 「意地張らずに貰いに行けって」 ディーノが苦笑すれば、案外しっかりとした表情で、雲雀がディーノを睨みつけた。 「そんな必要はないよ。どうせあと少ししたら薬の方からやってくるんだから」 きっぱりとそう断言する。 「薬の方から?なんだそりゃ」 訳が分からずディーノが首を傾げると同時に、がたんっ!と乱暴に応接室の扉が開かれた。 「……跳ね馬っ!?」 「え?ああ、スモーキンボムか、驚かせるんじゃねぇよ」 「……」 もう少し絡んで来るかと思ったかつての悪童スモーキンボムは、あっさりとディーノを無視して、雲雀へと向かっていく。 「あ、おいスモーキン……」 この2人が顔を合わせればまた雲雀が暴れだすのではと慌てたのはディーノの杞憂で。 「……ったく。毎年毎年人に運ばせてんじゃねぇよ」 「嫌なら来なければいい」 互いに口調はいつもどおりの喧嘩腰、のはずなのに。 何故だろう。 そうではない、とディーノは直感する。 「おらよ」 ぷち、とアルミのパッケージを破って、獄寺が小さなカプセルを取り出す。 「え?」 あれ?と思う。 状況と会話からみて、あれがたぶんサクラクラ病の薬、なわけで。 獄寺はシャマルの弟子で、雲雀のサクラクラ病はシャマルのせいで、だから不自然ではない、のかもしれない、けれど。 獄寺の長く形のよい指先に摘まれたカプセルは、そのまま雲雀の口元まで運ばれ、薄紅色の唇の隙間へと押し込まれる。 互いに何の疑問も抱いていないらしいその躊躇の行動は、けれど一瞬息を呑むほどに艶めいていて。 「あ、そうか」 思わず漏れた呟きに。 「何?」 「何だよ?」 黒と翠、二対の目が同時にディーノを睨む。 なんだ、そうか、と。 腑に落ちた。 「や、春だなって」 ディーノは、そう誤魔化すように笑って、窓の外を見つめた。 窓の外には、淡紅色。 人も、桜も。 季節は春を迎えている、 |
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