所有権




「君、弱すぎ」
 ぼろぼろになって戻ってきた獄寺を冷ややかに見下ろして、雲雀が言った。
 その冷やかな口調に、彼の機嫌のかなり低空を飛行していることを知る。
「何、怒ってやがる?」
 手傷を負うのは己の弱さ未熟さ故、との自覚だけはある獄寺は、ぷいと雲雀から視線ごと顔を背けた。子供じみた態度だということは分かっていたけれど、みっともない姿を雲雀に晒すのは著しく獄寺のなけなしのプライドを損なうことだった。
 彼が弱い者を厭うことは、嫌というほど分かっている。
 
「……雲雀さん、怒ってたね」
 綱吉が小さく肩を竦める。
「なんだか校舎を壊された時みたいだ」
 六道骸に並中生が襲われた時も。リング争奪戦で校舎が破壊された時も、彼は、自分のものと見なす領域が侵されることに、ひどく怒る、と思い出しながら。
「……獄寺くん!?」
 うっかり懐かしく昔を思い出して遠い目なんてしていたら、目の前の獄寺がひどく苦しげな顔をしていたことに気付いて、綱吉はひどく慌てた。
「傷が…!?」
 容態が悪化したかと心配そうに問いかける綱吉の言葉は、けれど怪我人とは思えぬほど強い力で獄寺に手を掴まれ、遮られる。
「全然違いますから……っ!」
「獄寺……くん?」
「………俺は、十代目のものです!あいつに怒る筋合いなんて……っ!」
「獄寺くん…」
 僕の学校。僕の並盛。そんな彼の人の言葉を思い出す。
 嵐の守護者である獄寺は、確かに「ボンゴレの」ものかも知れない。そう思ってしまえば、獄寺の言葉を否定することは、綱吉には難しい。
 だが。
「……でも、さ。筋合いとか、そういうんじゃなくて……心配する権利は、あるんじゃないかな」
 『俺の』友達。『俺の』仲間。『俺の』ファミリー。
 綱吉が当たり前のように口にできるその言葉を、雲雀が獄寺に対して口にすることは決してないのだろうと分かってもいるけれど。
「大体あの人が筋合いとか権利とか気にするとは思えないんだけど」
 むしろ理不尽で不条理なくらいが雲雀恭弥という人だから、と。

 大空であるボスは、あっさり獄寺の意地を無にするようなことを言って、苦笑した。