剣生




 生まれながらの殺し屋。
 赤ん坊の殺し屋は、まだ山本が本当の戦いを知らなかった頃にそう断言した。

 同じように幾多の戦いをくぐり抜け、同じようにボンゴレリングを所有し、同じように十代目ボスの守護者と呼ばれる存在となっても。
 何故、自分だけが、他の5人と違うのか。その理由を長い間山本は知らなかった。


「ああ゛?てめぇ何言ってやがる」
 一度だけ、スクアーロにこぼしたことがある。
 なぁ。
 なんで俺だけ、殺し屋なんだ?
「このど阿呆が」
 スクアーロはにべもなかったけれど。
 
「一つ、教えてやろう、小僧」
 ある時、気まぐれのように、山本に振り向いて。
 そして、言った。

 たいていの人間は、自分の戦い方を自分で選びとる。
 笹川了平が、自らの意志で拳を握るように。 
 綱吉が覚悟の炎をその手に宿らせるように。
 獄寺も、雲雀も、そうやって己の得物を選び取っていった。

「だがなぁ、てめぇは違う」
 心の底から、それが愉しくて仕方ない、というように笑って。
 スクアーロは、山本を見ていた。

 その、愛しくてたまらない、というまなざしの意味を。
 その頃の山本武は誤解した。

 剣、もしくは刀は違う。
 剣や刀は、刃の方がその振るい手を選ぶのだ。

「アーサー王を知っているか?」
 小さな子供に教えるように。
 そんな喩え話で。
「え?ああ……」
 岩に刺さった剣エクスカリバーは、王の資格を持つ者にしか抜けなかった。
 王であるアーサーがエクスカリバーを選んだのではない。
 アーサーはエクスカリバーに選ばれたゆえに王となった。

 人を殺して讃えられることを望む者は王となり。
 人を殺して責められることを望む者が殺し屋となる。
 
「てめえは選ばれたんだよ」
 その、鮮やかな笑みの意味を。
 誤解した。
 否、誤解しようとした。

 剣に、選ばれたのではなく。
 彼に、選ばれたのだと。

 選ぶのは刀の方だ、なんて。
 最初っから知っていた。
 最初にして最後の愛刀、時雨金時は、まさにそういう刀だった。
 時雨蒼燕流後継者にしか抜くことさえ許さない、この上なく我侭で孤高の刀。


「なぁ、知ってるか?スクアーロ」
 
 俺んち、寿司屋でさ。
 俺、ホント、ちっせぇ頃から、野球バカでさ。
 歩き出す前から野球のボール握ってたって。
 なぁ、スクアーロ?

 あんたには、きっと「山本武」が刀を握るまでの14年間なんて。
 どうでもいいんだろうなぁ。

 なぁ、スクアーロ。
 あんたが見てるのは、俺じゃない。
 刀を振るう俺、で。

 ああ、そうか。
 あんたは、あの人の───ザンザスの剣そのものだもんなぁ。


 少しだけ。
 選ばれた、この身が哀しかった。
 
 それでも、後戻りなど考えることもできない、この心が。
 もっと、哀しかった。











突発・山スク山


アニリボ(#123)見た後から
脳内でスクさんが
人が剣を選ぶんじゃねぇ剣が人を選ぶんだとか
言い出して落ち着かない感じだったので
とりあえず書き留めてみた
……ら、こうなりました(汗

本当にスケッチな散文で申し訳ありません
各々の場面ちゃんと書いたら
普通に本一冊分になりそうで困惑中



まだ決めかねているけど
年下攻の法則的に山スクかな