ヘアピン





  スィステーマCAIは理解した。
 後はダイナマイトを使い始めた時と同じ、いかにその武器を使いこなせるかだ。
 嵐ルームでひとしきり修行を重ねて、一服入れに部屋を出た。

 洗面所を通り過ぎたところで、すっかり砂埃にまみれていることを思い出した。
 どうせまたすぐ戻るのだから、シャワーを浴びるのも無駄なだけだが、気付いてしまうと気になって、顔だけでも洗おうと洗面台に立った。
「あ」
 蛇口を捻って手を伸ばしたところでぱさり前髪が落ちてくる。
 しまった、と思う。ピンもヘアバンドも持ってはいない。
 本当にとおりすがりに顔を洗いたくなっただけなのだから、しょうがない。
 まあ濡れてもいいか、すぐ乾く、と思ってもう一度蛇口に手を伸ばした時に声が
かけられた。
「獄寺君?」
「……笹川か」
 洗濯後なのだろう、丁寧にたたまれたタオルの束を抱えた笹川京子が立っていた。
「使う?」
 器用に片手でタオルの山を支えて、差し出された小さく華奢な手のひらには、小さいけれど愛らしい花の飾りのついたヘアピンが二つ。
「あ、悪ィ」
 特に何の感想もなく獄寺は京子のピンを受け取り、前髪をかきあげた。
 その僅かの間に、慣れた様子で手早くかけてあるタオルを洗い立てのものに交換し、じゃあ、また後で、と京子は去っていった。
 
 地下施設のせいか、蛇口から流れる水はいつだってぴんと背筋が伸びるほどに冷たい。
 その冷たい水で2度、3度と顔を洗い、たった今換えてもらったばかりの、洗いたてのタオルでごしごしと顔を拭いて、よしっ!と自分に気合を入れる。
 そうして顔を上げた瞬間、何故か目の前に雲雀がいた。
「……っ」
 何がどうということもないけれど、咄嗟に獄寺が身構えてしまったのは、これはもう条件反射のようなものだ。
 雲雀は、動かなかった。
 ついでに殺気もない。
 殺気はない、が。
「ヒバリ?」
 珍しく、まじまじと雲雀が獄寺を見つめている。
「…ンだよ?何か文句あんのか?」
 それがどうにも落ち着かなくて、知らず喧嘩腰になった。
「それ以上風紀を乱す真似をしたら承知しないよ」
 それ以上って何だよ!とは思ったが、己が品行方正であった記憶もないので、余計なことを言わず、ただ睨みつければ何故か雲雀が笑った。
 それは、ふ、と雲雀自身でも知らぬうちに思わず零れたような小さな笑みだったけれど、それが確かに笑顔であることを獄寺は疑いもしなかった。
「じゃあまたね、獄寺隼人」
 くるりと踵を返して去っていく黒い後姿を、まさに毒気を抜かれた顔で獄寺は見送った。

 ストームルームに戻るエレベーターの前で、こちらも休憩に入ったらしい綱吉と会った。
「十代目!」
「あ……獄寺君……?」
 なんだか不思議そうな、何か言いたげな顔で綱吉は獄寺を見つめて、何度か口を開きかけては閉じている。
「十代目?」
 どうかなさいましたか、と獄寺が綱吉の顔を覗き込めば、ううん、なんでもない!とぱたぱたと両手を振って否定する。
「獄寺君は?これから修行に戻るの?」
「はい!」
「頑張ってね」
「ありがとうございます!十代目も!」
 その顔色の特に悪そうでもないことを確認し、釈然としないながらも、獄寺は綱吉と別れた。




 全ての謎が解けたのは、夕食に皆が集まった時だった。
「そういや、獄寺可愛いのつけてんのな」
 がつがつがつと勢いよくご飯を食べていた山本が三杯目のおかわりをしたところで、不意に獄寺の方に顔を向けた。
「てめぇ何のつもりだ!?」
 よりにもよって野球馬鹿の口から可愛いなんて言葉が出たことに、全身鳥肌を立てて、当然のことながら獄寺は反論した。
「え、だって、それ」
 お箸を持った右手はそのままに、空いている左手で山本は獄寺の額の辺りを指差す。
「ぁあ!?」
 一体なんだと思いつつ、反射的に額へとやった指先に触れる、慣れない突起。
「……っ!」
 しまった、と一瞬で血の気が引いて、それから一拍遅れて、一気に上がってくる。
 邪魔じゃないからすっかり忘れていた。
 額の両サイドには、京子に借りた花のついた飾りヘアピンが二つ。
「いいよ、獄寺君。気に入ってくれたのなら、それあげる」
 にっこりと無邪気に京子が笑う。
「んなワケあるかーっ!」
 恥ずかしさに耐えかねた獄寺の絶叫が、食堂に響き渡った。














人気投票の隼人の前髪のピン使いにちょいとくらくらした結果
妄想がちょっとばかり別の方向に暴走しました


お花のピンつけて似合っちゃう可愛い14歳ですが
これでも攻です
そんなはやとをうっかり微笑ましく思ってしまってるらし24歳ですが
あれでも受です