比翼の鳥 いつの頃から、囁かれるようになったのか。 裏社会で、ひそやかな賞賛と憧憬、それに畏怖を込めて語られるようになったことが一つ。 ボンゴレ十代目の傍らには、美しくも危険な比翼の鳥が二羽。 「ていうか、アレ、嘘ばっかりだよね」 十代目ボンゴレこと綱吉は、中学以来の友人を前に苦笑する。 人付き合いはいいのに、妙なところで噂とかそういうことに疎い友人は、つい最近ようやくそんな呼び名が世間に流布していることを知ったらしい。 アレ、何?と真剣な顔で綱吉に問いかけてきた。 「でもさぁ、なんで獄寺と雲雀?」 少しだけ不満そうに、けれどそのほとんどは純粋な疑問系で山本が問いかける。 「あいつらのコト、分かってるヤツなんてそんないねーだろ?」 誰よりも彼らに近しい自分達なら、二人が並び称されるのも分からないではないが。 「………うーん最近ボンゴレ内じゃけっこう公然の秘密、らしいよ?」 呆れた表情を隠そうともせず、綱吉は応じる。 全く隠したり偽ったりする気のない雲雀と、語るに落ちるというか面白いほど自分からネタを周囲に提供する獄寺と。 それでおおっぴらに付き合っているつもりはないらしいのが、可笑しい通り越していっそ不気味だ。 「でも、あいつら一緒に行動してることなんてないじゃん?」 「うん、だから嘘ばっかり」 比翼の鳥とは互いに一つずつの眼と翼しか持たないために、二羽同時にでなければ飛ぶことのできない異形の鳥だ。 「ヒバリ、いっつも一人でふらふらしてんじゃん」 セットにされるなら、むしろ自分の方だろうと真顔で言い募る山本武の真意も、綱吉には謎だ。というか謎にしておきたい。頼むからそこには触れさせないでくれ。 それはともかく、確かに常に自分の傍らにあるという意味でなら、山本と獄寺を対に呼ぶ方が正しい。 「うん、感謝してるよ、俺の両腕」 そう。 セットにされるなら、山本と獄寺は両腕と称される。 ティーンエイジの頃からの望みどおり、晴れて右腕の呼称を手に入れた獄寺に対して、山本は左腕だ。 「じゃあ何で」 「簡単なことだよ」 綱吉が笑う。 「だって、雲雀と隼だろ。うちに鳥のつく名前は、あの二人しかいないから」 「え?」 さすがの山本も呆気にとられた顔をする。 「それだけ?」 「うん、たぶん、それだけ」 どちらも鳥の名を、その名前に持つ二人。 「ほら、こっちの人って変なところで漢字フリークだよね」 名前を言って、漢字で書いてみせる。山はmontagna。武はarma。そう説明して、おおっと感心されるのは、初対面の欧米人との初歩的コミュニケーションの一つだ。 おそらく雲雀がallodolaであることも隼人がfalcoであることも、そうやって誰からともなく広まって、並び称されるようになったのだろう。 「ちぇ、なんだそれ」 つまらねーの。 ボンゴレの誇る剣豪、時雨蒼燕流後継者は、中学生の頃からまるで変わらない顔で、そんなことを言う。 じゃあどんな理由なら納得するんだよ、山本、と。 つっこむのは心の中だけに留めておく綱吉だった。 何も知らない者達でさえ、悟らずにはいられないような繋がりがある、なんて。 ちょっとだけ悔しいから、認めてはやらない、と思ったのは、内緒だ。
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