師弟 その日、ディーノは同盟ファミリーとミラノ郊外のレストランで会食だった。 古い貴族の別荘を改装したレストランは味も内装も極上であったが、美しい庭園に囲まれているために、どうしても玄関に直接車をつけられない構造だった。 駐車場まで続く小道は四季折々の花に溢れて、そぞろ歩きには心地よかったが、襲撃者が待ち伏せするにも都合がよかった。 「キャバッローネだな」 がさり茂みが揺れると共に、飛び出してきた黒服の一団にぐるり囲まれる。 六、いや七名。 一瞬で敵の数と得物を把握する。 対するこちらは、ロマーリオとボノ以外のファミリーは駐車場で待たせているので三名だ。 「貴様ら、どこのファミリーの者だ!?」 ディーノを庇うように斜め前に出たボノが誰何する。 「さぁな」 「お前達はここで死ぬんだ、俺達がどこの誰だって関係ねぇってことだ」 かちゃり心臓に向けられた銃口。 「……こういうのもひさしぶりだな、ロマーリオ」 「そうだな、ボス」 のんびりとディーノは傍らに立つ腹心の部下へと話かけ、話しかけられた部下もおよそ慌てる風情もなく頷く。 キャバッローネを継いでしばらくは日常茶飯事だった襲撃も、規模ならボンゴレをトップとする同盟ファミリー第三位、ボンゴレボスとの絆の強さなら並ぶものない今となっては、キャバッローネファミリー十代目ボス、跳ね馬ディーノに手出しをしようなんて無謀な連中はめっきり少なくなった。 「……っ!」 その余裕を侮られたと理解して、正面の男が問答無用と引き金を引いた。 だが、銃声よりも一瞬早く響いたのは、宙を切るしなやかな鞭の音だ。 「……なんだと、!?」 あらぬ方向に放たれた鉛弾が、三つ。 一撃で三人から武器を奪った鞭は、何事もなかったかのようにディーノの手元に戻っている。 「こいつ…っ」 丸腰にされた正面の男が衝撃に震えていた。 「気をつけろ!」 自分達の優位を確信していた襲撃者達の間に、緊張が走る。 「……なるほど。あの、雲雀恭弥の師だったという噂は本当だったわけか」 「…まさか、っ…本当だったとはな」 おいおい、と男達の呟きに、ディーノは心の中で溜め息をつく。 何だよ、その認識は、と異議申し立てたいことなら、山のように。 「……っ」 これ以上文句が増えないうちにと、前触れもないまま振るった鞭が、残る三人を襲い、後の二人をそれぞれロマーリオとボノが取り押さえる。 「ボス…!」 「今の銃声は!?」 タイミングよく、銃声を聞きつけて駐車場に残してきた部下達が駆けつけてきて、手際よく全員を縛り上げた。 「……なぁ」 屋敷に戻る車の中。 隣に座るロマーリオに、ぽつりとディーノが呟いた。 「俺の認識って、恭弥のかてきょー?」 あー、とロマーリオは小さく呻いた。 さっきからずっとディーノがそこにひっかかっているのは、気配で察していた。 「仕方ねーだろうが。ボスは兵隊じゃないんだ」 キャバッローネの十代目ボスという立場が確立されればされるほど、ディーノ自身が前線で戦うことはなくなった。 それはファミリーとしては喜ばしいことだったが、結果としてディーノの強さを知る者は稀になった。 跳ね馬ディーノの名声は微塵も損なわれてはいないものの、彼が直接戦う姿を知らぬ者には、その強さと確かめるすべはない。 対して「雲雀恭弥」の名は、この数年で瞬くまに裏の世界に広まった。ボンゴレの雲の守護者としてではなく、ただ「雲雀恭弥」それ自身として。 まさにその属性のまま、自由気儘に飛び回る彼の正体を確かめんと多くの者が躍起になって情報を集めまくった。 その一つとして、世に知れ渡っているのが「雲雀恭弥はかつて跳ね馬ディーノを師としていた」というものである。 間違っていないし、ボンゴレの守護者のようにオメルタに抵触するものでもない。 が。 あの雲雀恭弥の師というからには強いのだろう、という自身への評価は、男としてのディーノの誇りにかけては、微妙に過ぎる。 「むくれんなよ、ボス」 くくっとロマーリオが笑う。 「むくれてなんか…っ」 子供の頃から自分をしるこの腹心の部下相手にどれだけ見栄を張ったところで、叶うはずもなく。 「俺もツナもいつまで経っても、リボーンの生徒だぜ……」 ディーノは拗ねた表情を隠しもしないまま、車のシートに身体を投げ出した。 「……知ってっか?恭弥。最近、俺の評価は『雲雀恭弥の師』らしいぜ?」 久しぶりに会った教え子にそれを教えた時には、もう言われた最初に感じた微妙なわだかまりはなくなっていた。 「……」 言われた教え子はといえば、特になんの表情の変化もなく、じっとディーノを見上げている。 なんだ、とちょっとだけ拍子抜けした。 もう少し何かの反応を示してくれるかと期待していたのは事実だ。 が、表情を変えないまま、おもむろに雲雀はトンファーをかまえた。 「え?何、恭弥?」 「そうだね、ちょうどいい。そろそろあなたには、そうやって先生面するのをやめて欲しかったんだ」 咬み殺す、と。 舌なめずりをせんばかりの凶暴な笑顔で、殺気を漲らせる教え子に、ディーノも苦笑しつつ鞭を構えるほかはない。 世間様の評価は、ともかく。 まだまだ、そう簡単に負けてやるわけにはいかないのだ。 |
唐突に書きたくなったディノヒバ ……というよりディノさん単体? ディノさん好きなんですよーホントに |