三色パン




「あ、三色パン」
 山本武の手元の、ビニール袋に入った菓子パンを見て、思わずツナは声をあげた。
「珍しいね、山本が菓子パンって」
 寿司屋の息子である山本は、基本的に弁当持参だ。それも店の残り物をアレンジしたボリュームたっぷりかつ美味しそうなものであることが多い。
「あぁ親父、昨日からちょっと出かけててな」
 たまのパンが目新しいのだろう、山本は楽しそうだ。
「カスタードクリーム、チョコクリーム、つぶ餡、と。……ツナ、どれが好き?」
「うーん、……クリーム、かな?」
「獄寺は?」
「どれも好きじゃねぇ」
「じゃあ、俺が、チョコな」
 呟きつつビニール袋を破き、ツナに差し出す。
「ツナ、どれがクリームだと思う?」
「え?……ええと、これ?」
 いきなり問われて面くらいつつも、右下のかたまりを指せば、ひょいっとちぎって差し出される。
「じゃ、こっちがチョコかな」
 残りをさらに二つにちぎって、その半分を獄寺に押し付ける。
 今の流れでいくと、獄寺の手元にはあんパンが渡されたこととなる。
「じゃ、いっせいのーで、で齧ろうぜ」
 自分の欲しいものを引き当てられたかどうか。
 それは単純なゲームだ。
「せーの」
 がぶ、と三人一斉にパンに齧りつく。
「お」
「……あ」
 ニュアンスの違う、音が二つ。
 ツナの手元には、チョコレート。山本の手元には、カスタード。
 獄寺の手元には、餡が渡っていた。
「惜しかったね」
 ツナは、けれどまったく残念そうでもなく笑った。


「十代目!」
 数日後、獄寺が満面の笑顔で差し出したのは、数日前山本が持っていたのと同じ三色パンだった。
「え?」
 あまり甘いものを好む性質ではない獄寺の昼食は、たいてい焼きそばパンとかコロッケパンとかおかずの入ったパンであることが多い。
 その獄寺が何で三色パン?まと思った。
「どうぞ」
 意気揚々と促され、ツナはさらに戸惑う。
「え?」
「十代目、お好きでしょう?この前、とても嬉しそうに食べてらっしゃいました」
「あ……」
 ツナはこぼれてしまいそうに大きな目を、瞬かせた。
 別に、と言いかけた言葉を咄嗟に呑み込む。

 別に三色パンが好きなわけじゃなかった。
 あんな風に、誰かと──友達と──パンを分けっこしたことなんてなかった。
 獄寺と。山本と。──彼らと出逢う前は。

「うん」
 だから。
 好き、と大きく頷いた。
「じゃあ、俺、今日はあんパンがいいな?獄寺君は?」
「俺は、……ええと、じゃあクリームで」
「じゃ、俺チョコな」
 当たり前のように、山本が頂戴、と手を伸ばす。
 お前にやるパンなんてねぇよ、と怒鳴る代わりに、獄寺は渋々といった様子でその掌にパンの三分の一を落としてやる。

 こんな風に誰かと分かち合うことなんて、考えたこともなかった。
 当たり前のように給仕される実家の城での豪華な食事に、こんな温もりはなかった。
 城を飛び出してからの喰うにも困るような生活の中では、奪うか奪われるかの毎日だった。
 敬愛する十代目のために自分の持てるもの全てを捧げることなら考えられても、一つのパンをこんな風に三人で分かち合うことなんて、思ってもみなかった。

「「せーの」」
 かけ声を共に、三人が一斉に安っぽいパンに齧りつく。
「あ、当たり」
「俺も」
 ツナが笑い、山本が笑う。
「さすがです、十代目!」
 そんな二人を前に、獄寺も笑った。










この前もの久しぶりに三色パンを見かけて
思わず懐かしくて買ってしまいました

中学生は毎回分けっこしては真剣に中身を当てようとしていると
可愛いと思います