星に願いを






 
 かさ。かさ。
 靴底の下で乾いた落ち葉の踏み潰される微かな音だけが夜の闇に響く。
 石畳の街や石造りの廊下を足音もなく歩く術と完全に気配を消すことには長けても、枯葉の砕ける音までは消せない。
 規則正しい微かな音が続く。
「おい」
 静寂を破ったのは、押し殺した呼びかけ。
「おい!どこまで行くんだ?」
 苛立ちを隠しきれない問いかけは、これが初めてのものでもなかった。
「……」
 先を行く、闇に紛れる黒衣の背中は、答えず。振り向かなかった。
 これまで、は。
 不意に、殺気が揺らめく。
「……っ」
 突然全開にされた殺気と同意義の存在感に、反射的に懐のダイナマイトに手が伸びそうになるのを、かろうじて押し留める。
 これは、敵じゃ、ない。
 少なくとも、今は。
「黙ってついてこないと咬み殺すよ」
「……てめぇ」
 別に脅されて黙ったわけではない。
 ただ、そんな気にならなかった。
 それだけだ。
 そう自分に言い訳をして、前を行く雲雀の背中を睨みつけるみたいに見つめて。
 足を進める。



 真夜中、というよりはあと数時間も過ぎれば新しい一日が始まるという時刻にふと浅い眠りから醒めて、習慣で咥えた二本目で煙草が切れて、そのまま寝なおす気にもなれずに、24時間営業のコンビニまで出向いた帰りだった。
 相変わらず学ランを肩に羽織った姿で、歩いている雲雀にばったり出会った。
 無視をして、通り過ぎてもよかった。
 向こうも、すれ違うその瞬間まで、獄寺などまるで目に入っていないそんな様子だった。
 それなのに。
「行くよ」
 すれ違う瞬間の、そんな一言に。
 呪文をかけられたみたいに、雲雀と同じ方向に向って歩き出す自分がいた。
 例えば。
 ついて来い、と命令されたなら。
 きっと自分は違う反応を示しただろう。
 
 けれど。
 共に行くことが当たり前みたいに、あの雲雀に言われて。
 


 ほとんどの住人の寝静まった並盛の町を、二人で歩いた。
 やがて町外れ、並盛神社へと着く。

 思い出の、たくさん残る場所だ。
 ここで、初めて、彼と共に戦った。
 皆で、花火を見上げた。
 十年後の世界では、ここで無様に敗れて。
 そして、彼に助けられた。



 真っ暗な参道を、山頂まで登れば、不意に視界が開ける。
 見下ろす並盛の街灯り。
 そして、頭上には、満点の星。
 
 その、一つ一つは小さくても揺るぎ無い光と、圧倒的な静寂に、息を呑んだ瞬間。

 東の空を、光が走った。
 一つ。
 また、一つ。


 みずがめ座η流星群。
 不意に、そんな知識を思い出す。
 いつか、どこかの天文学書で読んだ。
 知識としては、知っている。
 けれど実際に眺めたことなどない、春の流星群。

「僕が生まれた時には空一面に星が流れていた。そう言われた」
 自分のことなどまるで語ったことのない彼が、また一つ、白銀の軌跡を空に残して消えた星の光に導かれるように、呟く。


 一つ。
 また、一つ。
 星が、流れる。

 流れる星に、かけるべき願いなど、ない。

 あるのは、ただ。
 この手で叶えるべき、未来だけで。



 けれど。
 傍らに立つ存在の、その誕生の日を夜空さえも祝すように、流れる星を。
 ただ、美しいと見上げた。



 
 













うっかり雲雀BD話、もう一本追加


別にBD話じゃなくてもよかったのだけど
5/5あたりがみずがめ座流星群の極大日だという記事を
発見してしまったので、こじつけてみました



書きたかったのは
「黙ってついてこないと咬み殺すよ」
の一言です


リボコンでK藤さんが仰った
雲雀の愛の台詞です


逆に愛の言葉じゃない感じでSS書きたいなぁ、と
コンサート終わった瞬間から妄想してました