略奪愛




「お前にやれるもんなんか、ひとっかけらだってねぇんだよ」
 この命も、この忠誠も。全部あの日、十代目に捧げたから。
 吐き捨てるようにそう言った獄寺に、雲雀の目がすぅっと細められる。
「意味が分からないよ。君はさっきから何が言いたいんだい?」
「………っ」
 一瞬、獄寺が息を呑んだ。
 まるで、雲雀に問い返されることなどまるで予期していなかったようだった。
 確かに、それは雲雀にしては珍しいことだった。
 理解できない誰かの言葉を聴かされるくらいなら、言葉など二度と発せないようにするのが雲雀の流儀だったから。 
 きっ、と。
 殺気と見まごうほどの、強い目で、獄寺は雲雀を見た。
 その瞳は嫌いじゃない、と雲雀は僅か笑顔を覗かせた。
「……お前が好きだ」
 まるで、世界の終わりを告げるみたいに絶望的に。
 けれど、その瞳はこれまで何度か手合わせしたそのどの時よりも強く鋭く、まるでその視線の強さだけで雲雀を殺せるかのように向かってくるから。
「ふぅん、君おもしろいことを言うね」
 どうせならその気迫で戦って欲しいと思わないでもないけれど。
「いいよ。じゃあ奪ってあげる」
 簡単に捧げられたり差し出されるようなモノに、興味はない。だが、全部あの草食動物のものだと言い切ったその心と身体ならば。この手で。
「覚悟はいいかい?獄寺隼人」
「……おう」
 望むところだ。
 奪えるものなら奪ってみやがれ。
 
 そうして火蓋が切って落とされたのが、何なのか。

 まだ本人達にさえ分かってはいなかった。