お返し




「ホワイトデー、ね」

 日本人てのは商魂逞しいっすね、とまるで日本人ではないようなことを獄寺が言って、そういえば獄寺君は少ししか日本人じゃあないんだっけ、とツナは思い出した。
 2月には誰にどんなチョコをあげるかと落ち着きなかった女子達は、今度は誰がどんなお返しをくれるかと浮ついている。
 二日前、ツナもお返しのプレゼントを買った。イーピンと商店街のケーキ屋ナミモリーヌに行って、
『きょ、京子ちゃんはどんなのが好き、だと思う?』
と、ちょっと上ずった声で尋ねて、可愛いらしくラッピングされた焼き菓子の中からころんとした見かけも愛らしいマカロンを指差して貰ったので、それを三つ買って、一つはお礼にその場でイーピンにあげた。
 あんないかにもプレゼント然としたケーキ屋の店先で自分で選ぶなど一人ではできそうになかったから、イーピンがいてくれて本当に助かった。

「獄寺君はお返ししたりしないの?」
 そういえば悪いけど獄寺にもあの可愛らしいプレゼントを買う姿は激しく似合わないと思いながら尋ねてみれば、
「俺受け取ってませんから」
と、あっさり片付けられた。
 あ、そうか、と納得したツナに、あげるにはあげましたが、という獄寺の心の声が聞こえるはずもなかった。



 菓子業界の仕掛けた販促キャンペーンに興味はないが、今日3月14日を迎えて一ヶ月前応接室に駄菓子を持ち込んだ男の顔が無性にちらついて、むかつく。
「お返し、ね」
 雲雀は口元に凶悪な笑みを浮かべて立ち上がった。

「ちょっと。そこの歩く校則違反」
 教室の入口から雲雀が顔を見せた。
「ヒ、ヒバリさん!?」
 ツナがびくりと怯え。
「誰のことだ!?」
 獄寺が凄む。
「君に決まってるでしょ。ネクタイはちゃんと締める。ボタンも。装飾品は禁止。もちろんタバコも」
 もちろん獄寺が凄んでみたところで、動じる雲雀ではなく、淡々と校則違反を数え上げる。
「何しにきやがった!?」
「お礼?」
「は?」
 雲雀の言葉に、獄寺があっけにとられる。。
 むろん、その背景と化しているツナと山本も。
「今日は一ヶ月前のお礼をする日なんだろう?しかも三倍返しが基本だそうじゃないか。たっぷり礼はさせてもらうよ」
 一瞬で両手出現するトンファー。
「いいぜ、かかってきな」
 獄寺の手にはダイナマイト。
「ちょ、二人共…っ、ここ教室だから!」
 ツナの悲鳴は、誰にも届かない。
「嬉しそうだな、二人共」
「山本……」
 傍らには呑気な友人。
 
 おそろしい、ことに。
 山本の、指摘は。
 きっと、正しい。



 お礼とかお返しの意味が大分間違ってはいる気がするけれども。
 たぶん。きっと。


 あれも、3月14日の。

 幸せの、カタチかもしれない。

 











一日遅れで、日記にアップしたホワイトデーネタでした


感じとしては、無料配布本の「愛のかたち」の続き
という感じでしょうか