迷い猫  





 にょおん、とどこか間の抜けた鳴き声に雲雀は目を覚ました。しんと静まった施設。
 古風な布団からするりとしなやかにその身を起こし、音もなく障子を引く。ほの暗い廊下にうずくまるのは記憶にある匣生物だった。
「君か」
 ついと見下ろせば焔のような独特のゆらめきを宿す瞳が縋るように雲雀を見上げてくる。
「何しにきたの?」
 問いかければ、なーぅ、と何処か心もとない鳴き声が雲雀に答える。
「此処に彼はいないよ。君にも分かっているんだろう」
 彼は兵器としてではなく、これを可愛がっていた。此処に来るのにも匣にも仕舞わずしょっちゅう連れてきて、邪魔だと雲雀が文句を言っても素知らぬふりで聞き流していたのは、きっと雲雀が本心から疎んじてはいないことを見透かされていたのだと思うと何やら悔しい、釈然としない気持ちになる。
「もしかして君、淋しい?」
 淋しい、ということを雲雀は知らない。でも群れ達の言葉から推測するに、きっとこういう時に使う言葉なのだろうと思う。この非常時にあのあまりに無力な子供と引換に姿を消した、雲雀とこの猫が共通の知人とする男の面影を追うにはボンゴレのアジトは騒がし過ぎる。猫はまるでそんなの当たり前だというように、何も言わずに雲雀を睨みつけた。
「ワオ、相変わらず生意気だね、君」
 ぴし、と人差し指で猫の額を弾く。デコピンされた猫は、ふぎゃあと情けない声で鳴いた。猫が此処に来た理由が分からない訳ではないが、此処にあの男の面影を求められるのはさらに釈然としない。
「帰りな」
 みー、と猫は頼りない声で抵抗の意を示す。
「うるさいよ、君。僕の眠りを妨げるのは許さないから」
 ひょいと片手で首根っこを捕まえて持ち上げれば、猫は身を竦める。
「……もしかして、君、酔ってる?」
 雲雀の声のトーンと共に周囲の気温が、一気に下がる。
 ぴし、と猫は硬直した。
「いい度胸だ」
 片手に猫をぶら下げたまま、雲雀はもう片手に銀の凶器を閃かせて、威嚇する。
「ああ、それからあんまりあの小さい彼を虐めるんじゃあないよ。あれを痛め付けるのは僕だけでいい」
 笑顔によく似た表情ながら、決して笑っていない雲雀に、にーと小声で鳴いて猫は恭順の意を示した。
「いい心がけだ」
 くす、と今度こそ小さく笑って、雲雀はゆっくりとボンゴレアジト側へと長い廊下を歩きだした。板張りの感触が、裸足の足裏に心地よい。
 眠りを邪魔された代償は、そう、後で持ち主のあの男に払わせればいい。

 逢いたい、なんて。
 この匣の猫のように想っているわけではないけれど。


 嵐の前の静けさのようなこの一夜。
 確かに、存在する面影があった。












瓜!
可愛いよ、瓜!

ていうか
よくやった、瓜!



てことで、瓜&雲雀でした
本誌読んだ瞬間からもう
迷い込んだ瓜と雲雀のやりとりを妄想しては
にへにへとしております