薄暗い密室に閉じ込められて、どれほどの時間が過ぎたのだろうか。
季節外れの桜の下で雲雀を襲った眩暈は今はもう過ぎ去って、暴行の後の残滓のような痛みだけが残された。
地下室の中は薄暗かったけれど、天井近くに開いた隙間から光が漏れるおかげで真の真っ暗闇ではなかった。
その、薄闇の中に、何か小さなものが動いた。
「……」
小さなものは、ふわりと雲雀の目の前に降りてきた。
丸くて、ふわふわして、黄色い、毛糸玉みたいな。
「ヤラレタ!」
不意に、甲高い声で毛糸玉が叫んだ。
黄色いふわふわには、くちばしと真ん丸い目と小さな脚がついていたことに、雲雀は気付いたが。
それよりも、毛糸玉の台詞は、まったくもって気に入らないものだった。
「……うるさいよ」
「ウルサイ!」
思わずこぼした文句は、とても小さな呟きのはずだったけれど、すぐに甲高い囀りが返ってきて、雲雀は眉を顰めた。
その拍子に殴られた傷が痛んだけれど、今は目の前のふわふわの方が気になった。
「……咬み殺すよ」
「カミコロス」
「………」
どうやら目の前のふわふわは、言われたこと全てを鸚鵡返しするようだった。
いや、目の前のこれは百歩譲って鳥であることは認めても鸚鵡にはとても見えないから、鸚鵡返し、というのは適当ではないかも知れない、と雲雀は真剣に考えた。鳥が猿真似、というのもおかしいだろう。
ともかく言ったことを真似するというなら、返されて嬉しくないことを覚えられるのは困る。
かといって小鳥に言われて嬉しい台詞など、思いつくはずも───ないことも、なかった。
何度聴いても聴き飽きないというなら、愛する学校の─────。
「緑たなびく 並盛の」
「ミードリタナービクー ナーミーモーリーノー」
最愛の校歌を口ずさめば、少しばかり音程は不安定だが上手に真似をする。
少し、楽しくなった。
「大なく小なく 並がいい」
「大ナク小ナク 並ガイイ」
そうして、黒曜ランドの地下室で、誰も知らない校歌のお稽古が、密やかに行われたのだった。
「緑たなびく 並盛の」
だいぶ滑らかに歌うようになった小鳥の声を聴きながら、雲雀はそっと瞼を下ろし、膝の上に顔を埋める。
少し、疲れた。
眠い、と思う。
小鳥の歌う校歌を子守歌に、少しだけ、まどろんで。
そうして。
目の醒めるほど鮮やかな、ダイナマイトの爆発音に、呼び起こされるのだ。
’07.12.02 a.m.00:39