おめでとう

 



 ベッドサイドのカレンダーに見るともなしに、視線をやる。
 月を示す大きな9と、日付を示す小さな9。
 明日が何の日であるかを知らないほど、雲雀恭弥は愚かではないし、その日に特別な何か行動を起こすべきであるなど欠片も考えたことはない。

 心地よい寝台は、まだ気怠さの残る身体を柔らかくかつしっかりと支えて。
 隣にある体温は、雲雀自身のそれより少しだけ低く、心地よい。
 とうに慣れ親しんた、煙草の香りは、ゆるやかに眠りへと雲雀を誘う。



 夢を見た。
 幾何学的に整えられた庭木と、花壇。
 手入れの行き届いた芝生。
 雲雀の目からしても、十分に広い庭は、幼い子供の目と足には、さらに広大であったことだろう。
 広い庭の、良く似た円錐形の小ぶりな針葉樹の並木に隠れるようにしゃがみこむ、銀色の髪の幼児。
 雲雀はその子供の名前を知っていると思った。
 泣き濡れた、翡翠の瞳。
 白い肌に、赤みを帯びた頬。
 寸前までしゃくりあげていたことも忘れて、雲雀を凝視していた。

 世間一般の小さな子供にとって、特別な祝い事であるべきその日が、その子供にとってはそうでないことを雲雀は知っていた。


「君は弱い?」
 雲雀は、目の前の幼子に問いかける。
 幼子は、きゅっと小さな唇を引き結んで、ふるりと首を振った。
「そう」
 雲雀は、少しだけ笑った。
 子供は、雲雀が笑ったことに気付いていた。
「じゃあ、早く僕に追いついて。弱いだけの小動物に興味はないよ」
 こくり、と幼子が頷く。


 夢は、そこで終わる。
 目の前には、夢よりも少しばかり色褪せたような、銀色の髪。

 二0年かけて、あの子供はそれなりに自分に追いついたと認めてやってもいいだろうか。
 だとすれば、目の前のこの男は。


 おめでとう、という言葉に少しだけ相応しいのかも知れない。












お誕生日おめでとう、はやと!



そして
ごくひばに出会って、急転直下でサイトを作って
今日で丸4年が過ぎました

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