2010 はやたん 「お、そういや、隼人。お前、誕生日だろ?」 並盛中保健室に常駐する、世界的な殺し屋にしてかつての主治医が、へろりと笑った。 「それがどうした?」 彼のこういう笑いは要注意だと知っている隼人は、猫が毛を逆立てるみたいに警戒の色も露わに睨みつける。 「祝い、やるよ」 ほれ。 とさ、と押しつけられたのは、薄くて大きな、外国の写真雑誌が十数冊。 全部、表紙はグラマラスな女性が、目のやり場に困るような格好で映っている。 「いらねぇ……っ」 「まぁまぁ照れるな」 押しつけられたまま、保健室を追い出されて、ついでに鍵までかけられた。 「おい、シャマル!」 どんどんどん、と保健室のドアを叩いていれば。 「うるさいよ」 背後から、冷やかな声。 「……げ」 獄寺隼人が何よりも苦手とする筆頭の、風紀委員長雲雀恭弥がそこに立っていた。 「何それ」 隼人の腕の中に抱えられた雑誌を見て、さらに表情が険悪になる。 「押しつけられたんだよっ、あのエロ医者野郎に!誕生日だからとか何とかっ!」 せめてもの言い訳を試みれば。 「ああ、誕生日だったね」 全く変化のない口調でそこを肯定されて、一瞬動きが止まった。 「これ、何語?」 雲雀の視線が、手元のエロ雑誌に向けられる。 彼の興味は、ブロンド女性の、その胸の巨大さを誇示するようなビキニ姿よりも、明らかに英語ではない、表紙の文字列の方に向けられていた。 「スペイン語」 隼人が即答すれば、彼の興味はさらに深まったようだった。 「これも?」 「あ?ああ、こっちはイタリア語だな」 「これは?」 「ドイツ語」 「これ」 「スロヴァキア語だな」 「……」 「んで、これがフランス語。ロシア語。ベルギー語で、フィンランド語。こいつがタイ語で、……英語日本語中国語は分かんだろ?」 見事にインターナショナルなエロ雑誌の山に、雲雀はなんとも複雑な顔をした。 何語で書かれていようと、風紀を乱すいかがわしい本であることには間違いないのだけれど。 少しだけ、別の好奇心が勝った。 「君、読めるの?」 それ、全部? 「リンガフランカならとりあえず。タイとロシアは得意じゃねぇ」 それ以外はなんとか、と隼人が答える。 「読んでみせて」 「ええええ?」 「読めるんだろう?来なよ」 ずるずると腕を引かれて連れていかれた先は、当然のように応接室。 「君と一緒にいるあの草食動物も、全部読めるのかい?」 「いや、おそらく十代目は、まだ」 だがいずれはボンゴレのボスとなられるお方、十か国語くらいは軽いだろう、とわがことのように隼人は胸を張る。 「ねぇ、これは?何て読むの?どういう意味?」 その後、延々とエロ雑誌の翻訳をさせられたのは、ただのセクハラだったと後に隼人は思い起こす。 いつの間にか、隼人と同じように数カ国語を操るようになっていた雲雀が最初に触れた言葉の多くがエロ雑誌だったなんてことは、風紀財団委員長の名誉のために、黙っておいてやっている。 |
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