Sangria 大きめのタンブラーに、製氷室の氷をぎっしりと入れる。 扉を開けた途端、流れ出す氷点下の冷気が、熱を帯びた身体に心地よい。 しなやかに鍛え上げられた裸身を惜しげもなく晒して、獄寺はキッチンに立つ。 上質なクリスタルガラスが、からんと小気味いい音を立てるのが耳に心地よいので、グラスだけは良質なものを揃えている。 獄寺隼人が、自分に許している幾つかの贅沢の一つだ。 かのボンゴレ・ファミリーの中枢、十代目ボスの右腕でありながら、基本的には家出少年時代に培った慎ましやかな金銭感覚の抜けない獄寺だったが、こと音に関しては妥協を許さないことが多い。 閨で待つ彼の情人も、彼の選ぶ音については、ほぼ全面的に気に入っている節がある。 そんな器の贅沢とは裏腹に、氷は、ただの水道水だ。水によって氷の割れる音も全然違う響きをみせる。それは知っている。知っているが、この飲み方には、そんな繊細さは似合わない。 昨日の飲み残しの赤を、グラスの半分くらいまで無造作に注ぐ。買い置きの一リットルパックのオレンジジュースをグラスの残りのさらに半分注ぐ。最後にサンペレグリノを注いで、シナモンを振ったら出来上がり。 タンブラーを二つ、両手に持って、ベッドルームに戻る。 「ほら」 「……」 雲雀の注文は水、だった。 一瞬、不満げに視線を上げて、けれど黙ってタンブラーを受け取る。 こくこく、と二口ほど飲んだところで、不満の色が眉間から消える。 あれだけ声を上げさせたのだから、喉が渇かないわけがない。 とはいえ、タンブラーいっぱいのサングリアを一気飲みとは、雲雀恭弥にしては無防備に過ぎるように思える。 あるいは、それも、彼の計算のうちだろうか。 ともあれ。 せっかく綺麗な朱の色を刷いた肌が、本来の白さを取り戻さないように。 血の名前を持つカクテルで、まずはその赤を定着させて。 二度目の酩酊の責任は、グラスの中身になすりつけようと思った。 |
2010夏コミ配布ペーパーSSその2 あまりに刷った数が足りなくて いらして下さった皆さまにほとんどお渡しできなかったので 急遽、サイトアップとしました |