宇治金時 グリーンティーなんて、安易なものを使うことを彼は、認めない。 ちゃんと茶筅で抹茶をたててから、上白糖を加えて、抹茶シロップをその都度作る。 添えるつぶ餡は、並盛商店街の、老舗の和菓子屋のものだ。 家庭用の氷削機は、どうしても氷のきめが荒くなりがちなので、風紀財団を立ち上げた次の夏に、業務用を備品として購入した。 深いガラスの鉢に、ふわりと氷を盛って、抹茶シロップをかけて、餡を添える。 そこらの甘味処の厨房に入っても立派にやっていける手際で、宇治金時を一つ仕上げて、雲雀の部屋へと運ぶ。 「恭さん」 お持ちしました、と声をかけて、障子を引く。 「そこにおいておいて」 単衣の着物から覗く白く凶暴な足が、こちらへ向けられている。 雲雀は振り返りもせず、隣のボンゴレ基地から迷い込んできた仔猫と戯れている。 にょおん、と仔猫が鳴く。 「……何、君も食べたいの?」 ことり小首を傾げて、雲雀は宇治金時の鉢を引き寄せた。 「あ、おい、瓜!てめぇ、どこに行ってやがった?」 ボンゴレアジトの廊下。 まだ片付けられていない資材の陰から、姿を現した自らの匣兵器をようやく見つけて、獄寺は手荒に摘み上げた。 ふぎゃ、と不機嫌に爪を立てる仔猫から、一瞬、甘い香りがして。 「……おい、瓜。正直に言いやがれ。てめぇどこに行ってやがった」 この甘さは、京子やハルが作る菓子の甘さではなく。 もっと、凛として深い、あの男の好む───。 己の匣兵器ほどには簡単に壁を乗り越えることができない嵐の守護者は、副財団長の作る宇治金時が食べたくなった、というのが、隣接するアジトを訪ねる口実として妥当かどうかを真剣に検討し始めた。 |
2010夏コミ配布ペーパーSS あまりに刷った数が足りなくて いらして下さった皆さまにほとんどお渡しできなかったので 急遽、サイトアップとしました |