spumante 「なぁ、恭弥。見てくれよ」 にこにことディーノが取り出したボトルを、雲雀は興味なさそうに見やった。 「何?」 手書きらしいラベルの貼り付けられた深い緑のボトルは、栓の形を見るところスプマンテだろうと推測はつく。 「5年もの。やっと出して貰えたんだ」 「?」 キャバッローネが所有するワイナリーは、幾つかある。その中の幾つかは、商品として市場に流通するワインやスプマンテを造っているが、ファミリーのためだけに作られるまったくプライベートなワイナリーもある。 ディーノの話の様子からして、おそらく後者だろうというのも分かる。 「それがどうかした?」 が。 最近ようやくアルコールを口にするようになったばかり雲雀には、まったく興味のない話である。 「お前に、出会った年のスプマンテ」 ディーノは、にこっと笑った。 スプマンテをはじめとするスパークリングワインには、二通りの製法がある。 大きなタンクですばやく大量に作られるもの。そしてシャンパンと同じように瓶の中で熟成されるもの。 後者は、収穫から熟成までに数年の時間を要する。瓶の中でゆっくりと熟成されていくスプマンテは、ゆっくりと関係を深めていった自分達に似ている、とディーノは思う。 ぽん、と軽やかな破裂音と共に、栓を抜く。 細身のフォルムが美しいフリュートグラスに、ごく淡い金色のスプマンテを注げば、立ち上る細かな泡で一瞬グラスの中が白く染まる。 「良いスプマンテの条件って知ってるか?」 「知らない」 知るわけがない、と雲雀がそっけなく応えれば、ディーノはさらに笑みを深くして、雲雀の唇に軽く口づけた。 「?」 「こうして、夜、くちづけと共に栓を抜くだろ」 そうして言葉を切り、グラスの中のスプマンテを一口含む。 仕草で促され、雲雀もグラスに口をつける。 まだ酒になれぬ雲雀でも飲みやすいと思える、軽やかな酸味と甘みが口に広がる。 もう一度ディーノが、雲雀に口付ける。 スプマンテの味のキス。 「……ん…っ」 てっきり先と同じように軽く口づけるだけで離れるかと思えば、さらに強く身体を抱き寄せられ、舌が進入してくる。 「………なに、急に……」 ようやく抗議の言葉を紡ぎ出せた時には、すっかり着衣も呼吸も乱されている。 「ん……?ああ、だから良いスプマンテの条件」 「何、……」 「夜、口づけと共に栓を抜いて、朝、一緒に目覚めの一杯飲む時に、まだちゃんと泡が立つのが良いスプマンテなんだって。だからさ、確かめさせて」 そう無邪気に笑うディーノの背後で、淡い金色の液体が細やかな泡を一筋ゆっくりと立ち上らせている。 それを、少しの間、雲雀は目で追った。 雲雀が何を見ているか気付いているディーノも、律儀に動きを止めて、雲雀の答を待つ。 「………好きに、すれば」 長いような短いような間を置いて、雲雀は、すとんとその身の力を抜いた。 「ん。ありがとう、恭弥」 さらりと、その黒髪を撫でて。 心の底から嬉しそうに笑って。 ディーノは、もう一度、雲雀にくちづけた。 その胸に湧く愛しさの、穏やかに、けれど尽きぬことのないように。 この恋と同じだけの歳月を過ごした淡い金色のスプマンテが、静かに尽きぬ泡を立ち上らせていた。 |
昨日、友人と牡蠣&ワインの会など催していた際に 友人に教えて貰った「良いシャンペン」の話が萌だったので さっそく利用 お酒というかスパークリングは ディーノさんのイメージだと思ったので ここは一つ無節操にディノヒバで(^^;; 唯一のディノヒバ友、くりこさんにひっそり捧げてみます |