2010  Giorno di San Valentino





「これ、嫌い」
 普段はトンファーを握る最凶の右手が、金紙に包まれた丸いチョコを摘み上げる。
 たぶんリキュール漬けのさくらんぼが入っているタイプだ。
 摘み上げたチョコを、無造作に置かれた箱の上蓋へと避ける。
「これも」
 今度摘んだのは、一番黒に近い色をしたチョコレート。
 ブラック、あるいはビタータイプだろう。
「これも要らない」
 これも濃い色のビターを、もう一つ。
「これでいいのか?」
 今度は獄寺が手元の箱から、柔らかな色合いのチョコレートを摘みあげ、雲雀の手元の箱の、開いたスペースに移動させる。
「うん」
「後は?」
「これ」
 指差すチョコの表面には、細かな粒々が浮いている。プラリネのチョコだろう。
 雲雀に渡したせいで空いた自分の箱のスペースに、先ほど雲雀が避けたチョコを戻す。
 それで、交換完了だ。









「なぁ、あれっって……」
「しっ!」
 何か言いたそうに口を開いた山本に、綱吉は慌ててしいーっと合図した。
 触らぬ神にたたりなし。
 あの雲雀恭弥が、京子ちゃん、とハルとクロームとイーピンの4人で用意した義理チョコを(あくまでも、義理、だ。そこが肝心なのだ。)受け取ったのだ。
 あのチョコレートが原因で何かあったら、京子ちゃんが悲しむ。
 だから、雲雀さんには、どうかこのまますみやかに何事もないままお引取りいただきたい。
 だから、どんなに目の前でつっこみどころ満載の光景が繰り広げられていたって、気にしちゃいけない。むしろ目に入れちゃいけない。

 雲雀の好みは、甘めのミルクチョコレート系で、ビターやリキュール系は好まない、なんて。
 知りたくもない、事実だというのに。
 なんだって、かの右腕を名乗る親友は、心得たように彼の好みに応えてやっているのだろう。












ハッピー バレンタイン



うちのひばりさんはこっそり(?)甘党です