四重奏 24

 



 絵本の読み聞かせは、隼人の役目。
 だから、あの性悪な大黒猫が、今日は僕がお話を読んであげるよ、なんて薄くて小さな本を持ってきた段階で、もっとちゃんと警戒すべきだったのだ。
 なのに、バカな銀色仔猫が嬉しそうに大猫の膝元に座り込んだりするから、ひばりも撤退しそこなった。
 その結果が、これ、だ。

「……馬鹿馬鹿しいっ」
 口ではそう強がりながら、二匹はぴたりくっついて一枚毛布に包まって震えていた。
 寒いのはもちろんだけれど、震えているのは当然それが理由ではない。

 穏やかに優しげな顔で、雲雀が語り聞かせたのは、それはそれは迫真の恐怖感溢れる怪談だった。
 道に迷った旅人が、山中にぽつりと建つ古い屋敷に宿を求めたが、実はその屋敷自体が物の怪であったために、旅人は屋敷に喰わる。
 要約すれば、そんな話だ。
 けれど、問題は。
『今も時折、屋敷の壁や天井には、喰われた旅人達の顔が浮かんでは消えるそうだ』
 そう、静かに締めくくった後に。
「ああ、そういえば……時々ここも顔が見えることあるよね。どこだったっけ?」
 しれっとそう言って、隼人を見遣ったことだった。


 あれは雲雀が、二匹を恐がらせるための、冗談だ、と分かっているつもり、だけど。
 うっかり見上げれば、壁のかすかな汚れが、影が。
 天井や柱の木目が。
 嗤い。あるいは叫び。あるいは呻く、人の顔となる。
 

 大丈夫。
 恐くない。
 あれは、お話。
 性悪な黒猫の、ただの、意地悪。

 触れる掌を、ぎゅっと握り締めて。
 そう、言い聞かせた。

 






「やり過ぎ」
こつんと額に触れる拳。
「何」
あの仔猫達に対するみたいなその態度が気に入らない。

「あいつら本気で怖がっちまってる」
そんなこと知っている。
「怖がらない怪談なんて意味ないよ」

「程度ってものがあるだろうが」
「天井の木目なんて一生怖がるとでも?」


本当に怖いものは。
そんなものじゃないだろう?











SNSより再録




ひばにゃんは ひどい人です
もとい ひどいにゃんこです