愛の話



「ボス!」
 ヒバリが暴れている、と部下の一人が駆け込んできた時、ちょうどツナは獄寺と仕事の打ち合わせが終わって、中学生の時から変わらぬ様にだらだらと他愛もない話に興じていたところだった。
「あのヤロウ」
 ヒバリ、とその名を聞いて、ほとんど条件反射のように獄寺が顔を顰める。
 こういうところ、相変わらずだな変わらないなぁ獄寺君、とツナは思う。
 もっとも雲雀の名を聞くだけで素直に喜ぶ獄寺など、この期に及んで見たい代物でもないので、いっそこの人達は変わらないでこのままでいてくれ、とも願う。
「獄寺君、行ってくれる?」
 あの人を止めに、とツナが言えば、獄寺は微妙な顔をした。
 お任せ下さい十代目!といういつものフレーズがとっさに出てこない獄寺というのは、とても珍しい。
「俺が行ってもいいんだけど、ボスが守護者にボコられてるの、皆に見られるのってさ、やっぱり問題だよね」
 初めから自分にヒバリが抑えられると思っていないツナは、呑気なものだ。
「何を仰いますか!」
 が、獄寺は俄然意気込んでしまった。
「あんなヤツ、十代目のお手を煩わせるほどのことありません!俺が行ってこうがつんといってやって来ますから!」
「……うん、頼むね」
 雲雀さんの相手を、とツナは声には出さず心の中で付け加えた。
「お任せ下さい、十代目!」
 いつものフレーズを力いっぱい叫んで、意気揚々と出て行く背中を見送って。
「……うん、言えないよね……」
 ツナは、こっそり呟いた。
 いやむしろ獄寺くんの場合はボコられてるのがいいんだ、なんて。

 あのトンファーで殴られても本気で足蹴にされても不死身な勢いでヒバリへの愛を垂れ流すべた惚れっぷりが──にも関らず、本人達はクールに無関係を貫き通しているつもりらしい抜けっぷりも含めて。──一部部下達からは強烈な共感と応援を受けていたりする事実を、多分あの親友は知らない。
 つまりイタリアにも案外恐妻家は多い、という話なのだが。



「おい!何十代目のお膝元で暴れてんだよ、てめぇは」
 どこの映画のセットかと思うような大階段を降りながら、エントランスホールでたった今下っ端一人を殴り潰した雲雀に声をかける。
「なんだ、君いたんだ」
 獄寺の姿を認めた瞬間、ヒバリの纏う空気が変わる。
 八つ当たりのような辺り構わぬ不機嫌さから、明確に叩き潰す対象を見つけた危険で凶暴で残忍で、でもひどく愉しげで嬉しそうなものへと。
「いたんだ、じゃねぇよ。好き勝手にふらふらしてるてめぇと違って俺はいつだって十代目のお傍にいるんだよ」
 それがさも特別なことのように言い張る獄寺と。
「……」
 その言葉に、また違う色の不機嫌を付け加える雲雀と。




 あぁ幸せそうだね、あの二人、とツナは吹き抜けの一番上から手摺越しに二人を見下ろし、生暖かい目で遠くから見守ることにした。