真冬の夜の夢

    ---Serenata 番外編---




「クリスマス、か」
 世間には浮かれた空気が満ち溢れている。
 自分には関係ない、という気持ちは例年とさして変わりないが、今年は雲雀がいた。
 預かりものの、吸血鬼の子供。
「……もっと縁ねぇよなぁ」
 吸血鬼と十字架なんて、天敵もいいところだ。
 彼らに聖人の聖誕祭を祝う習慣などあろうはずもない。
 マーケットの棚を埋め尽くす、原色の赤や緑のリボンに飾られた、チョコレートやキャンディをちらり見やって、溜め息一つ。
 こんなにも楽しげな子供用のクリスマス菓子だって、食べられるはずもない子供なのだから。
 だから、クリスマスになんて拘ることは、まったくもって無意味なのだ。
 
 けれど。
 人の世界で育てよ、と託されたのならば。
 これも人の世の慣わし、と教えてやってもいいはずで。





「なに、これ」
 起き抜けに、赤い帽子をかぶせられた雲雀は、むすっとした顔で獄寺を見上げてくる。
「んー、そういう、お約束、かな?」
 自分が柄にもなく浮かれていることなら自覚していた。
 
 赤い衣装は、聖ニクラウスの司教服。
 けれど赤い帽子は、祭が民間に浸透する間に混入した、フィンランドの妖精に由来するもの。
 これなら、雲雀にとっても害にはなるまい、と子供用の仮装帽を一つ、買った。
 闇色の子供にはおそろしく不似合いな、明るい赤の三角帽子だ。

「わけわかんない」
「いいんだよ、俺の自己満足だから」
 
 クリスマスイブの、小さなサンタクロースが、今年の、自分のための贈り物。
 そう勝手に決めた。

「今日はご馳走だから。しっかり飲めよ」
 ちゃんと、ターキーも、パネトーネも食べたから。
 今日の彼のご飯は、いつもよりご馳走のはずだ。















SNSより再録



夏に出した合同誌「真夏の夜の夢」の
吸血鬼パラレルからスピンオフ

大人獄寺×子雲雀 の子育て時期です