solstizio d'inverno






 珍しく主が昼間から入浴をすると言い出した。
 珍しい、と思ってしまったのが顔に出たのだろう。
「冬至だからね」
 主は決して寡黙というわけでもないが、コミュニケーションには多少のコツがいる。
 その行動の理由をわざわざ草壁に前もって説明するのは、さらに珍しいことだった。
「かしこまりました」
 
 冬至だから、と主に言われるまでもなく、前日のうちに買い求めておいた柚子をふんだんに湯船に浮かべた。
 柔らかくも豊かな柑橘の香りが、広い浴室に満ちる。

 この数日は、この冬一番の冷え込みが続いている。
 こんな日には、ゆっくりと風呂に浸かって体を温め、日頃の疲れを癒してくれれればいい。
 そう単純に思っていた。

 入浴の本当の理由に気付いたのは、隣接するボンゴレアジトから、騒々しい客人が訪れた時だった。







 ひさしぶりだな、戻ってたんだって、と笑って。
 まるで触れていいか、とお伺いを立てるようにおずおずと抱きしめてくるのは、いつものこと。
 相変わらずだね、君は。
 こっそりと雲雀は、喉の奥で猫みたいに笑う。
 いつの間にやら長くなった腕と、広く厚みの出た胸の間に閉じ込めるように、抱かれて。
 いっそ苦しくなるくらい、ぎゅっと抱きしめてみればいいものを、と少しだけ他人事みたいに思う。

「あれ」
 雲雀を抱きしめて。
 髪に顔を埋めるみたいにしていた男は、敏く気付いたようだった。
「なんか、つけてる?」
 オレンジの匂いがする、と頭上で呟く。
 ボンゴレの駄犬と陰口される男は、犬の仇名に相応しく、鼻は利くようだ。
「オレンジじゃない、ゆずだよ」
 だが、正確じゃない。
 駄犬で十分だ。
「ゆず?」
「冬至だからね」
 だから、教えてやる。
「………あー」
 なんか聞いたことがある、と呟きはさっきより近付いて。
「……っ」
 不意に、耳を食まれる。
「すげぇいい匂い。ヒバリが美味しそうだ」
 耳から首筋へと、這い降りる舌に、背筋がぞくぞくする。
 ゆず風味のヒバリ、なんて。どっかのレストランのメインディッシュのメニューみたいだな、なんてくだらないことを言うから。
 その襟元の黒いネクタイを引っぱって手繰り寄せて。
 その唇を塞いだ。






 昼は短く。
 夜は長い。


 レストランじゃなくて。
 ベッドの上の、メインディッシュにしてみろというのだ。










SNSより再録




冬至のお話
ゆず湯大好き