接触
* 獄寺×十年後雲雀です
性的な接触を含みますので、苦手な方はお引き返し下さい
「おいで」
無表情に告げられた、招きの言葉。
「……ヒバリ?」
獄寺がついてくることを疑いもせず、すたすたと歩いていく背中を、小走りに追いかける。
記憶にある───彼の知る雲雀恭弥とは違う、成人男性としては細身ではあっても、きちんと完成された、男の背中。
それはシャマルや家光達、戦い慣れた大人達のそれとよく似ていて、十四歳の獄寺の胸をかすかに軋ませる。
初めて入る「施設」は、まるで異界のようだった。どこまでも続く錯覚を起こしそうな畳敷きの大広間に、屏風。
その圧倒的な様式美が、そもそも古典的な日本文化に親しみのない獄寺をまるで威圧するかのように迫ってくる。
「何の用だよ」
まだ、少しだけ正視するのに馴れない、ヒバリであってヒバリでない大人を睨みつけるように、見上げる。
「うん。しようかと思って」
「へ?」
ヒバリの言葉の意味が取れなくて、一瞬無防備に聞き返したところで、腕を引かれた。
「……っ」
かろうじて受身はとれた、と思う。下がコンクリートの床などではなく畳だったおかげもあって、引き倒されたところで、大して痛みはなかったけれど。
「何しやが……」
るんだてめぇ、と続くはずだった言葉は呑み込まれた。
自分の喉に、というよりはヒバリの唇に。
「……っ」
自分に覆いかぶさるように重なってきた身体を、唇に重なる唇を、ただ呆然と受け止める。
獄寺が呆然としている間に、慣れた舌は唇の隙間からするりと入り込み、歯列を軽く舐めた後、起用に歯をこじ開け、口内へと入り込む。
何だかひどく柔らかくてくねくねとしたものに、いいように口内を蹂躙されて、それが舌を入れたディープキスだということに獄寺が気付くまで、無様にもたっぷり数秒かかった。
気が付くと同時に、雲雀の舌の甘さだとか唇の柔らかさだとか気持ちよさだとか体温だとか身体の重みだとか近さだとかが、全部同時に意識されてしまって、獄寺は一気に混乱した。
「……っ!」
思わず目を見開けば、思いもしなかったほど間近に彼の黒い目を見つけて、反射的にぎゅっと目を閉じてしまう。
その幼い反応に、目の前の彼が微かに笑うのを、身体の震えで感じた。
「てめ……」
何しやがんだ、という罵倒は、うっかり息があがって続けられなかった。
たぶん自分は今耳まで真っ赤になっているであろう、自覚はあった。
目の前にいる雲雀は、彼の知るヒバリより何割増かで美人になっている、と獄寺は思った。
それが、ひどく眩しくて。
そうして、今も、自分達が属するあの時間の、並中のきっと応接室あたりで一人静かに佇んでいるだろう、雲雀恭弥の不機嫌な横顔を想った。
いっぱいいっぱいで。無我夢中で。それこそどっちが嵐の守護者だか分からない感じで翻弄されて。しがみついて。それでも懸命に伸ばした手で、彼を、抱きしめて。
「……なぁ」
悠然と衣服を整える人の背中に、問いかける。
「何で?」
自分でも、いまさらものすごく間の抜けた問いだと思ったが、訊かずにはいられなかった。
彼──目の前の彼ではなく、今此処にはいない自分達の時間の中の彼──、に対する感情は、自分でも未だ整理のつかないところが多々ある。
彼に、触れたいという欲求が明確にあったことは、否定しない。
が、自分達にそんな風に触れ合えるような関係と距離がなかったことも、否定できない。
「………君、初めてじゃなかったから」
「は?」
しばしの沈黙を挟んで返された答は、やっぱり獄寺を迷わせるものだった。
や、俺正真正銘初めてっスけど、と近づきがたいうなじあたりに視線を彷徨わせつつ、一人ごちて、それからたぶんヒバリの言っている「初めて」が、たぶん今の自分を指しているのではない、と気付いた。
たぶん。自分からしたら未来、目の前の彼からしたら過去のある時点で、自分と彼は、関係を持って。そして、その時の自分が「初めてじゃなかった」という話、で。
「………ぅわ」
考えるとせっかくおさまりかけた身体中の血がまた変な感じに沸き立ちそうで、獄寺は慌てて首を振った。
「あ」
それから、はたと気付く。
それが、理由。
この目の前のヒバリが自分に手を伸ばした───抱かせてくれた、理由。
「帰っていいよ」
言外に、出て行けと言われているのだと獄寺は察した。
こんな時どういう態度をとればいいのか。どんな顔をしてどんな言葉をかければいいのか。
「初めて」の獄寺には、分からなくて。
だから、自分もはおっただけだった上着に袖を通して、立ち上がる。
最後に振り返った彼の、口元に浮かぶひどく綺麗な微笑に、一瞬心を奪われて。
そうして。
やっぱり、大人じゃない彼に会いたくなった。
’07.10.19
獄寺のお初の相手は、大人雲雀だったらいいなぁという妄想。
いやだって現在獄ヒバだとどう考えても無理そうなんですもん。色々。
サイトという制約を考えた結果、とりあえず脳内にある輪郭を吐き出してみました。
お初の詳しいあれこれとか、雲雀視点とかは、やっぱり本で出すべきだろうかと、野望中。
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