着ぐるみ




  ターゲットの有力な情報を得た、という連絡がボンゴレ本部に入ったのは昨夜遅くのことだった。
 少し前からボンゴレが追っていた敵ファミリーの殺し屋だった。
 とにかくその足取りを掴ませない男だった。
 その男が明日、移動遊園地で次のクライアントと接触するという。
 クライアントも、ボンゴレとは敵対しており、そちらの動向を探っていて掴んだ情報だった。
 なんとしてもこの機に捕らえたい。
 だが相手もプロだ。迂闊に向かえば、情報漏れを察して接触前に逃げられるだろう。
 絶対にボンゴレが張っていると気付かせてはならなかった。


「わー プーさん」
 四歳程の少女が笑顔で足元にしがみつく。
(クマじゃねぇけどな)
 着ぐるみの中で苦笑しながら、山本はもこもこの手で少女の頭を撫でてやった。

 下っ端の構成員ならともかく、最前線で戦うことが多くボンゴレの二大剣豪として、裏世界では名を知らしめている山本は、顔を知られている可能性がある。
 それが、綱吉の判断だった。
 その結果が、このうさぎらしきマスコットキャラクターの着ぐるみ姿だ。
 軽量化されているとはいえ、ばかでかい頭部が重い。動きづらいけれど、手足の動きを制限されるわけではないのは、確認済みだ。

 キャアアと甲高い歓声を上げて両手にぶら下がる女子高生だの、可愛らしい蹴りを入れてくるやんちゃ盛りの男の子だのの相手をしながら、油断なく周囲に視線を走らせ続ける。
(……、あれは!)
 少し先、ソフトクリーム屋台の前。
 店を覗くふりで、ゆっくりと歩いてくるのは、間違いなくターゲットの男だった。
 この移動遊園地での取引という情報に偽りはなかったのだ。
 山本は、小さな広場を行き来する子供達の頭を撫でながら、さりげなくターゲットに近付いた。
「わー、ラビたん!」
「やーん、可愛い」
 自分より軽く50センチ以上も長身のうさぎ着ぐるみを可愛いと言い切るつわものな、若い女性達が山本に──というかキャラクターに──握手を求める。
 しめた、と思った。
 女性の、すぐ向こうにちょうどターゲットが歩いてきている。

 女性達の手を握ってあげたその手で、いかにも愛想よく人懐こいキャラクターのそぶりで、強引に男の前に立ちはだかり、握手のふりで手を伸ばす。
 男が避けようとするのをすかさず、ぎゅっと両手でその手を拘束して。
「……っ」
 小手返しの要領で、地面に叩きつける。
 ざわっと周囲が騒ぐのに構っている余裕なんてない。
 この男のせいで、何人ものファミリーが命を落してきた。
 ここで逃がすわけにはいかないのだ。
「……っ!」
 が、敵もさすが百戦錬磨の殺し屋だった。
 まったく手加減なく山本が地面に叩きつけたにも関わらず、きっちりと受け身をとれているために、ダメージは少ない。
 無駄のない蹴りで山本の動きを誘い、如何せん着ぐるみのせいできっちりと拘束しきれていなかった山本の手を振り払う。
 まずいと思った時には、男は立ち上がり駆け出していた。
 その手が懐の拳銃を取り出したのを見た時には、体が動いていた。

 着ぐるみのもさもさと長い毛並みに隠し持っていた時雨金時を抜き放つ。
「時雨蒼燕流 攻式三の型 遣らずの雨!」
 放たれた時雨金時が、男を捉える。


「はい!カット!! お疲れさまでしたー! バニーちゃん、今日も見事なアクションでしたねぇ」
 場違いに明るい声が、響く。
 固唾を呑んで停止していた客達は、なんだアトラクションかと呪縛が解けたかのように、笑って動き出す。
「はい、ご苦労さん」
 にこにこと肩を貸すふりで、こそりと拘束しつつ、会場清掃用の小さなトローリーに、倒れた男を担ぎこむのは、清掃員の制服に身を包んだ獄寺だ。特徴的な銀髪をキャップに隠しているので、まず気付く者はないだろう。


「お手柄だったね、山本」
 にこ、と綱吉が山本を見上げる。
「まさか、バーニーちゃんの時雨蒼燕流を見られるとは思わなかったな」
 ちょっと凄い眺めだったよ、と綱吉は笑うけれど。

 勘弁してくれ、と。
 山本は、苦笑しながら空を仰いだ。


 

















コウジさんとチャットで話しているうちに
アニマルフード → コアラ着ぐるみひばり となって
でもこれ山本なら普通にシリアス話になるよ
といった結果がこれです


着ぐるみ時雨蒼燕流の視覚的破壊力は
とんでもないと思います