あらののはてに





 町に流れるクリスマスソングの大半は、獄寺隼人には、まるで馴染みのない日本の歌謡曲、よくてアメリカのポップソングで、そんな時自分は生まれ育った国から遠く離れてここに来たのだと思い出す。
 今はもう、そうやって思い出さなくてはいけないほど、並盛にいること、十代目の傍にいることは獄寺には当たり前のことになった。

 クリスマスイブの今日、あの小うるさい女子達が足しげく通うケーキ屋の前はいつにも増して人だかりで、別に立ち寄らなくてはいけない用もないので、素通りしただけだったけれど、店先に置かれた古いラジカセから繰り返し流れるメロディーは、耳に馴染んだものだった。

Les anges dans nos campagnes
Ont entonn? l’hymne des cieux

 こっそりと口ずさむ歌詞は、フランス語。
 小さな頃、歌い覚えた賛美歌だ。

 けれど、Gloria と続くはずだった高音は、喉にひっかかったみたいに、声にはならなかった。



 変声期を迎えた頃、自分は、街角の不良少年で、発する言葉といえば、他人を威嚇し、脅すものばかり。
 賛美歌など歌うこともなかったから、気付くこともなかったけれど。

 もう、礼拝堂で賛美歌を歌うことはなく。
 何も知らないまま、腹痛に苦しみながらピアノを弾かされることもない。
 あの、小さな隼人はもういない。

「……よし」
 携帯のディスプレイを睨みつけること、十五秒。
 覚悟を決めて、発信ボタンを押した。




「……ヒバリ?」

 パイプオルガンよりも。
 聖歌よりも。

 今は、彼の声が、聴きたかった。












Buon Natale!


皆様がよいクリスマスを
過ごされますように




はやとが歌っている賛美歌がタイトルのものです
たぶん聴けば皆分かるはず