四重奏 12




 甘い匂いがした。
 黒っぽくてつやのない、はやとの小さな手のひらには少し余る、やや平べったい円い食べ物だった。
 はい、と大きな雲雀が二匹の仔猫にくれたのだ。
 食べたことのない食べ物を前に、傍らの黒仔猫は警戒をあらわに、手をつけようとはしない。
 はやとにもためらいはあったが、いかんともしがたい程に、はやとは仔猫だった。好奇心が勝った。

 警戒したなら慎重に端でもかじってみればいいものを、良くも悪くも、はやとは思いきりがよすぎた。

 かぷっと勢いよく噛みちぎり、その予想外のもっちりした感触に驚き、反射的に丸飲みして、事態を悪化させた。



「みゃ?」
「チビ?」
 餅ならまだしも、おはぎを喉に詰まらせて目を白黒させている銀色仔猫に、黒仔猫と大きい方の銀色猫が気付くと同時に、大きい黒猫が動いた。
「っ!?」
 はやとの顎の付け根をつかんで強制的に口を開かせるや否や、口で口を塞ぐ。間髪入れず侵入した舌に喉奥を突かれ、げふげふと激しく噎せた拍子に、喉の詰まりはとれていた。
 けふけふとまだ噎せている銀色仔猫は涙目で大きな黒猫を見上げている。
「大丈夫?」
 優しげに黒猫は問うけれど。

 色々別の意味で大丈夫じゃない、と精神的ダメージをこうむった大小の銀色猫は思った。











SNSより再録



夏のおはぎは
夜船
冬のおはぎは
北窓



おはぎの別名に関する
長年の気がかりを解いてくれたあをさんに
感謝のささげもの